第16話 前に立つ理由
「……生きてるか?」
低い声で、意識が引き戻された。
瞼を開ける。
視界に入ったのは空ではない。
木々の隙間から差し込む光。
そして、こちらを見下ろす人影。
「……あ?」
状況を理解する前に、頭が鈍く痛んだ。
――そうだ。
熊——
足の裏——
推進力——
木——
「……」
「やっぱり気絶してたか」
苦笑混じりの声が落ちてくる。
視線を上げる。
三人。
装備を見る限り――冒険者だ。
剣士が一人。
軽装の斥候が一人。
そして後ろに、ローブ姿。
――典型的だな。
「ここで何してた?」
「この辺、山賊の縄張りだぞ」
「……熊、運んでた」
「は?」
「町まで」
一瞬、空気が止まる。
斥候が俺の背後を見る。
倒れたままの熊。
そして、周囲の地面に残る抉れ。
「……お前、一人で?」
「一応」
剣士が眉をひそめる。
「魔法使いか?」
「杖もローブもありませんが……」
「物理を愛する魔法使い、かな」
痛む頭を撫でながら答える。
「……変わった魔法使いだな」
俺もそう思う。
でも事実だ。
意味不明なものは、愛せない。
俺は立ち上がり、服の土を払う。
「ようするに、
魔法使いだけど……ほぼ前衛だ」
はっきりと、息を呑む音がした。
「……前衛?」
「距離を詰めた方が、計算が楽だ」
理解できない――そんな表情。
だが、否定はされない。
――この世界ではこういう反応になる、か。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「俺たちは山賊を追ってる」
剣士が話を切り出す。
「数は十人前後。
森の奥に根城がある」
「山賊、ね……」
視線が、俺に向く。
「あの熊、一人で倒したんだろ?
なら……協力してもらえないか?」
少し考える。
十人前後の賊を三人で倒せると見込んでいる――
冒険者パーティの戦い方――
”知る”には良い状況――
――死ぬリスクは低い、か。
「条件がある」
三人の視線が俺に集まる。
「無茶はしない。
正面突破は、基本やらない。
俺は、役割を選ぶ」
剣士が、わずかに笑った。
「……いいな。理にかなってる」
斥候も頷く。
「山賊相手なら、奇策は歓迎だ」
ローブの女性が、興味深そうに俺を見る。
「あなたの魔法……見せてもらえる?」
「環境次第だが、実戦でな」
即席のパーティー。
信頼は、まだない。
でも――俺の目的は決まっている。
「行くか」
剣士が言った。
俺は、熊を見る。
「……これは?」
「あとでギルドだな」
身体は、まだ少し痛む。
だが、動ける。
魔法も――使える。
異世界生活は、
ついに――他人と交わり始めた。
それが、面倒で。
少しだけ、楽しみだった。




