第15話 足の裏は、逃げ道だ
熊は、重い。
想像の三倍、現実的に重い。
「……いや、マジで」
前足を引きずり、少し動かしてみる。
びくともしない。
力の問題じゃない。
運ぶという行為そのものが、無理ゲーだ。
「……移動、か」
ふと、昨日の思考が蘇る。
――足の裏から魔法を撃てば、加速に使えるんじゃないか?
殴るためじゃない。
倒すためでもない。
今は、
”運ぶために” だ。
「……まずは練習だな」
いきなり熊で試すほど、俺は命知らずじゃない。
問題は山ほどある。
威力調整?
多分、無理だ。
ファイアーボールの実験で分かったが、
出力は絞れない。
蛇口じゃない。
出すか、出さないか。
それだけだ。
「……身体で受けるしかないか」
なら、安全第一。
川へ向かう。
水量は十分。
失敗しても、ずぶ濡れになるだけ。
――ここだ。
川の手前で、深く息を吸う。
足首。
壊したら終わりだ。
膝と股関節。
クッションを意識する。
腹圧。
忘れるな。
でも、上半身は――脱力。
顎を引く。
視線は、進行方向。
呼吸は……
腹圧を逃がさないため、胸式に切り替える。
「……よし」
足の裏に、意識を集める。
――ファイアーボール。
放つ。
ドンッ――!
次の瞬間。
視界が、跳ねた。
「うおっ!?」
身体が、飛ぶ。
一気に前方へ。
川が、下に流れる。
――越えた!
だが、着地……
ドサァッ――!!
派手に転がった。
「……っ」
一瞬、全身を確認する。
足首。
膝。
腰。
「……大丈夫、か」
痛みはない。
致命的な違和感もない。
「……生きてる」
思わず、息を吐いた。
――いける。
同じ要領で、もう一度。
今度は、角度を少しだけ調整する。
ドンッ――!
身体が、前へ。
川を越える。
着地。
トン――
「……よし」
今度は、成功だ。
「……なるほど」
威力じゃない。
角度だ。
身体で、受け流す。
押し出される方向を、誘導する。
「……これ、使えるな」
一瞬、気が緩む。
――運搬、楽勝じゃん。
そう思った。
……思ってしまった。
熊のところへ戻る。
後ろ脚を両手で掴む。
重い。
だが、理屈は同じだ。
「……よし」
足裏に、魔法。
――ファイアーボール。
ドンッ――
次の瞬間。
「……あ」
重みを、考えてなかった。
身体が、想定以上に持ち上がる。
視界が、回る。
木。
幹。
近い。
「――しまっ……」
ゴンッ――
鈍い音。
世界が、暗転した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
どこかで、川の音がしていた。
熊は――
……どうなったんだろうな。
それを考える前に、
意識は、完全に途切れた。




