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第14話 動作は、嘘をつかない

翌朝。


空は晴れていた。

風も弱い。


――実験日和だな。


今日は、依頼じゃない。

身体と魔法の“すり合わせ”をする日だ。


実験段階で、森の奥へは行かない。

森林火災は、洒落にならない。


川沿い。

水量も十分。


失敗しても、被害は最小限。


――よし。


まずは準備運動。

肩を回し、股関節を開き、足首を確認する。


「……さて」


魔法を、どう“出す”か。


改めて考える。


手の平から魔法を放つ必要は――


――ないよな。


俺は一歩下がり、助走を取る。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



■ バレーのアタック動作


跳ぶ。

身体を反らし、

肩甲帯を一気に解放する。


打点は――高く。


――ファイアーボール。


ドンッ!


水面が爆ぜた。


……威力、明らかに高い。


「おお……」


反動は分散されている。

体幹から脚まで、きれいに流れた感覚。


ただ――


「……当たらねぇな、これ」


打点が高すぎる。

命中率は、低い。


実戦向きじゃない。


「次だ」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



■ 投球動作


軸足を決める。

体重移動。

肘を畳み、前腕を走らせる。


――ファイアーボール。


シュッ。


水面に、一直線。


「……安定感、あるな」


威力はアタックほどじゃない。

だが、狙った場所に行く。


反動も、許容範囲。


――これは、使える。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



■ サッカーのキック動作


最後——


助走。

軸足。

インパクト。


――ファイアーボール。


「……」


火球は、思いっきり明後日の方向へ飛んでいった。


「……だよな」


蹴り足の振り抜きが、魔法の軌道と合っていない。

遠心力は乗るが、制御が難しすぎる。


――今の俺には、実戦向きじゃないな。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



三つ、試した。


整理すると――


・威力:アタック

・安定:投球

・浪漫:キック(却下)


「命中率さえ上がれば……」


走りながらの射出も、問題ないはずだ。


ふと、気づく。


「……そう言えば」


俺、詠唱してないな。


無意識だった。

最初から。


「……無詠唱か。俺」


笑ってしまった。


――便利だけど、雑に扱うと死ぬな、これ。


「よし」


実戦だ。


少し大きめの魔物。

できれば、殴り合いたくないやつ。


森の中。

しばらく歩くと――


――いた。


「……あの熊、だな?」


この世界で初めて

”死”を意識させられた相手。


体格、でかい。

毛皮、厚い。

爪、長い。

足も、速い。


先日の戦闘を思い返す。


――正面からは、却下。


息を殺す。

距離を測る。


――この距離なら……


投球動作。


――ファイアーボール。


ドンッ!


命中。

ファイアーボールは左肩に当たり、爆ぜた。


熊はこちらを一度睨んだが、

そのまま、その場に崩れ落ちた。


「……あっけないな」


先日の戦闘は何だったのか……

そんな思考はない。


反動は問題なし。

身体も壊れていない。


そして、

魔法の攻撃力の高さ――


それを認識した、

その瞬間だった。


ゾワッ――


頭の奥が、熱を持つ。

理解が、勝手に進む感覚。


「……?」


脳内に、構造が流れ込んでくる。


火。

壁。

持続。

制御。


「……あ」


――新しい魔法だ。


『試すな』という理性を無視して、手を前に出す。


「……ファイアーウォール」


炎が立ち上がった。


柱――いや、壁だ。


「……やばっ」


次の瞬間。


ゴォッ――


熱波。


肌が焼ける感覚。

そして、“肺が危ない”感覚。


「ッ!!」


即、解除。


心臓が跳ねる。


「……これ、ダメなやつだ」


威力以前の問題。

周囲への影響が、デカすぎる。


熱は、見えない――


これを街で使ったら、人が死ぬ。


「……封印だな」


魔法リストの中で、そっと鍵をかけた。

静かになった森で、倒れた熊を見る。


「……でかいな」


引きずってみる。


――重い。


「……これ、街まで運ぶの、一苦労だぞ?」


ため息。


魔法は進化した。

身体も、少し分かった。


だが――


生活は、相変わらず現実的だ。


熊を前に、

俺はしばらく立ち尽くした。


異世界生活は、

今日も、ちゃんと面倒くさい。


でも――


「……悪くないな」


そう思えた。


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