表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
151/172

【第6部】第4話 勇者の話

牢の前——


石の廊下に、灯りが揺れていた。


ユウキは、壁にもたれて座っている。

膝を抱えたまま、しばらく何も言わなかった。


俺も、侍従長も、

黙ってユウキを見ていた。


やがて、ユウキが口を開いた。


「……大学生だった」


小さな声だった。


「20歳」



沈黙。



俺は頷くだけにした。


「普通の……大学」


少し笑った。


「別に、すごく頭がいいとかじゃない」


指で床をなぞる。


「ゲームとか、漫画とか……好きで」



少し間。



「冒険物とか、勇者とか……好きだった」


侍従長の眉が動く。


俺は何も言わない。


ユウキが続ける。


「……だから」


喉が鳴る。


「女神に呼ばれたとき」


顔を上げた。


「すげえ嬉しかった」




沈黙。




「選ばれたって思った」


拳が震える。


「俺だけが……」


小さく笑う。


「バカだよな」


俺は言う。


「普通だ」


ユウキがこちらを見る。


俺は肩をすくめた。


「”憧れ”になれるなら、俺でも喜ぶ」


侍従長がこちらを見る。


無視する。


ユウキが小さく息を吐いた。


「女神が……優しかったんだ」


遠くを見る目。


「お前なら出来るって。

 世界を救えるって。

 みんなを守れるって」




沈黙。




「……信じた」


廊下の灯りが揺れる。


ユウキの声が少し低くなる。


「魔族は悪だって。

 魔王は世界の敵だって。

 お前も――」


目が俺を捉える。


「——裏切り者だって」


俺は頷いた。


「その教育なら、そうなる」


ユウキが少し驚いた顔をした。




沈黙。




やがて、ぽつりと呟く。


「……でもさ」


指が床を叩く。


「牢屋に入ってから」


声が止まる。


「女神の声——」




沈黙。




「——聞こえないんだ」


廊下の空気が少し重くなる。


侍従長がわずかに動いた。


俺は何も言わない。


ユウキが続ける。


「なんでだろうな」


笑う。


乾いた笑いだった。


「勇者なのに。

 ――見捨てられた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ