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【第6部】第2話 銅と勇者

石畳の道を、三人で歩いていた。


前を行くのは侍従長。

その横に俺。

少し後ろにカイム。


朝の街はまだ静かだ。


市場の準備をする商人。

パンを焼く香り。

水を運ぶ子供。

遠くでは鍛冶屋の金槌の音が響いている。


「それで」


侍従長が歩きながら言った。


「昨日のお酒の話ですが」


「あぁ」


「バーボン、とおっしゃいましたね」


俺は頷いた。


「トウモロコシの酒だ」


侍従長の眉がわずかに動く。


「穀物酒、ですか」


「そうだ。しかも酒精が強い」


侍従長の目が少し輝いた。


「それは……興味深いですね」


俺は笑った。


「ドワーフは強い酒、好きなんだろ?」


「はい」


侍従長は頷く。


「ドワーフの皆さんは、

 かなり酒精の強い酒を好まれます」


少しだけ考えてから続けた。


「実を言うと……

 私も酒には興味があります。

 特に――」


少し楽しそうな顔になる。


「飲んだことのない酒は、

 非常に興味をそそられますね」


俺は肩をすくめた。


「ちなみに。

 俺が一番好きな酒だ」


カイムが横からため息をつく。


「で?何で俺まで連れてきた?

 また面倒くさい事を

 やらされるんじゃねぇだろうな」


俺は振り向いた。


「銅が欲しい」


「は?」


カイムが嫌そうな顔をする。


「軍から銅板を貰ってこい。

 使い古しでいい。

 壊れててもいい。

 銅の盾でも鎧でもいい。

 銅板なら何でもいい」


カイムは目を細めた。


「……よく分からんが」


少し考える。


「壊れててもいいなら、

 格安で譲ってくれると思うぞ?

 それに――」


肩をすくめた。


「主流は鉄だ。

 戦時中でも銅は余ってると思う」


俺は頷いた。


「だろうな」


侍従長が横から聞く。


「ところで……

 イロハ殿も軍の方へご一緒という事は、

 例の件でしょうか?」


俺は頷いた。


「あぁ。

 勇者に会いに行く」


侍従長は一瞬だけ驚いた顔をした。


「……急ですね」


「悪いな」


俺は言う。


「手続き頼む」


侍従長はすぐに頷いた。


「かしこまりました」


少し歩きながら続ける。


「議事録にも残っております。

 恐らく許可は下りるでしょう」


カイムが眉をひそめる。


「勇者?なんだ急に」


俺は前を見たまま答えた。


「放置されてるらしい」


カイムが難しい顔をしながら、腕を組む。


「んー……俺達魔族からすれば、敵の主力だ。

 処刑するなり――

 人質にするなり――使い所はある」


「しかし、放置されております」


「となれば……

 戦時中だからか?

 いや。違うな……

 勇者の使い道が無いってことか?」


俺は何も言わない。




しばらく歩く。




やがて城壁の内側にある軍施設が見えてきた。


石造りの高い壁。

見張り塔。

鉄の門。


兵士達が行き交っている。


侍従長が門番に声をかけた。


短い会話。

そして門が開く。


「どうぞ」


侍従長が振り向いた。


「許可が出ました」


俺は小さく頷く。


「早いな」


「軍の長は閣下ですので」


侍従長は静かに言った。






俺達は門をくぐった。


石の通路を進む。

地下へ続く階段。


空気が冷たくなる。


鉄の扉。

鍵の音。


重い扉がゆっくり開く。






その頃——


石の部屋の中で、

勇者ユウキは、膝を抱えて座っていた。


暗い部屋。

小さな窓。


光はほとんど入らない。


頬を涙が伝う。


声は出ない。


ただ静かに。


静かに。


勇者ユウキは泣いていた。

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