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【第5部 幕間】第5話 剣と遊び


「全然わかんねぇ!!」


俺は机を叩いた。


向かいに座っているイロハは、

湯気の立つ茶をすすりながら、

まったく動じない。


「楽しく、って言われてもな!

 訓練とイコールになんねぇだろ!?

 遊びの中で鍛えるって……

 意味わかんねぇんだよ!!」


俺が詰め寄ると、イロハはようやく顔を上げた。


「で?何をやったんだ?」


「……あ?」


「子供達にだ。何をやらせた」


俺は舌打ちしながら椅子に座り直す。


「最初は筋トレだ。

 腕立て伏せ。スクワット。腹筋」


イロハは無言で聞いている。


「結果は?」


「腕立ては五回で寝転ぶ。

 スクワットは途中から、ただのジャンプだ

 腹筋は……三人が途中で消えた」


「逃げたのか」


「逃げた」


イロハは小さく息を吐いた。


俺は続ける。


「だから次は鬼ごっこだ。

 走り回れば体力つくだろ?」


「……で?」


「また数人が消えた」


イロハは湯呑みを置いた。


「そりゃそうだ」


「は?」


「それはただの遊びだからな」


俺は思わず机を叩いた。


「だろ!?だから言ってんだよ!

 結局ただ遊びにしかなんねぇんだよ!」


イロハは少しだけ笑った。


「ザッツ。子供は何歳だ?」


「あ?……だいたい七、八歳か?」


イロハは椅子にもたれた。


「じゃあ質問だ。

 その年で一番伸びるものは何だ?」


「筋肉だろ?」


「違う」


「体力か?」


「違う」


俺は眉をひそめる。


「じゃあ何だよ」


イロハは指を一本立てた。


「神経だ」


「……は?」


「神経系」


俺は顔をしかめた。


「なんだそれ?」


イロハは少しだけ考えてから言った。


「いいか。筋肉は剣だ。

 神経は――それを振る速さだ」



俺は黙る。



「子供の剣は弱い。だがな……」


イロハは指先で机を軽く叩いた。


「振る速さだけは化け物なんだ」


「……」


「つまり子供の体は、

 筋肉より神経が伸びる」


「……?」


「動きの速さ――

 反応――

 バランス――

 そういうものが伸びる」


俺は腕を組んだ。


「つまり?」


「子供の訓練に正解はない。

 楽しい動きに、

 いろんな動きが混ざっていればいい」


俺は顔をしかめる。


「例えば?」


イロハは指を折りながら言った。


「ジャングルジム競走――

 ケンケンパ――

 ケンケン鬼ごっこ――

 雑巾がけレース――

 リレー形式の五目並べ――

 公園の遊具を使った障害物競走――」


俺は目を細めた。


「……ただの遊びじゃねぇか」


「そうだ」


イロハは即答した。


「遊びだ。

 だが、そこには……


 走る――

 跳ぶ――

 止まる――

 曲がる――

 バランス――


 ……全部が入っている」



俺は黙る。



「しかも」


イロハは肩をすくめた。


「子供は勝手に全力になる」


「……なるほどな」


少しだけ理解した気がする。

俺は頭をかいた。


「つまり、

 楽しけりゃ何でもいいのか?」


「楽しくて――」


イロハは言った。


「色んな動きが混ざっていればな」


そして付け加える。


「あと柔軟。忘れるなよ」


「柔軟?」


「怪我防止。子供は調子に乗る」


「確かにな……」


「あと……体を器用にする」


俺は椅子にもたれた。




しばらく沈黙が続く。




そして俺はふと聞いた。


「で?」


「なんだ?」


「これが何で、

 俺が強くなる事に繋がるんだ?」


イロハは少しだけ笑った。


「神経系のトレーニングはな、

 子供の年代がピークだ。

 だが、大人でも伸びる」


俺は眉を上げる。


「剣だけ振るな」


イロハは言う。


「剣以外の動きをしろ――」


「体を色んな方向に動かせ――」


「転べ――」


「跳べ――」


「回れ――」


「——体も思想も柔軟にしろ」


俺は鼻を鳴らした。


「思想までかよ」


「大事だ」


イロハは、そして少しだけ間を置いた。


「あと――」


「なんだ?」


「守る者がいると」


イロハは静かに言った。


「人は強くなる」



俺は黙った。



「子供達とかな」


「……」


俺は顔をそむけた。


「……うるせぇ」


イロハは笑った。

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