表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
142/150

【第5部】第34話 オッサンとのお茶会

孤児院の門を出ると、

ザッツが怪訝そうな顔でこちらを見た。


「で、どこに連れて行くんだ?」


「オッサンのとこ」


「……は?」


「支援者だよ。ウチの」


ザッツは腕を組みながら歩く。


「へぇ。金持ちか?」


「まぁ、そんなとこだ」


適当に答えると、

ザッツは鼻で笑った。


「なるほどな。

 孤児院を丸ごと支援できるってことは、

 相当な物好きだな」


「そうだな」


俺は肩をすくめた。




しばらく歩く。




そして――

目の前に現れたのは、巨大な城門だった。


ザッツが足を止める。


「……おい」


「ん?」


「ここ、どこだ?」


「城だな」


「見りゃ分かる!」


門番の衛兵がこちらに気付く。


そして次の瞬間――

ピシッと敬礼した。


「イロハ様」


「通るぞ」


「はっ」


門が開く。

俺はそのまま歩き出した。


ザッツは立ち尽くしている。


「……おい」


「早く来い」


「いや、待て」


「待たない」


「待てって!」


結局、ザッツは小走りで追いついてきた。


城の廊下を進む。

衛兵や侍従たちが、次々と道を開けていく。


ザッツの顔が、だんだん青くなっていった。


「……なぁ」


「なんだ」


「その支援者って」


「うん?」


「いや……まさか、な」


俺はある扉の前で立ち止まった。




魔王執務室――




ザッツが固まる。


「お、おい……」


俺はノックする。



コンコン――。



返事は待たない。

ドアを開ける。


「オッサン、来たぞ」


「待っておった」


机の向こうで、

魔王が顔を上げた。


ザッツが凍る。


「今、シュルームが茶を――」


魔王が言葉を止める。

俺の隣を見た。


「……その者は?」


ザッツが膝から崩れ落ちた。


「ま、ま、ま、魔王様ぁぁぁ!?」


「うるさい」


俺はソファに座る。


「ウチの新入り、

 体操のお兄さんだ」


「……体操?」


魔王が眉を上げる。


ザッツがこちらを見た。


「ちゃんと説明をして?させて?!

 ……頂かせ、ろ?

 いや!させて下さい!!」


「後でな」


その時、ドアが開いた。

侍従長シュルームが入ってくる。


「お待たせいたしました。お茶の――」


ザッツを見る。


「……おや?

 毒見役兼用心棒の方ですな?」


「いや、体操のお兄さんだが?」


「なるほど。

 無事、首輪をつけた訳ですね」


侍従長はザッツへ振り向き……


「昇進、おめでとうございます」


「いや!むしろ降格だ!!

 じゃないっ…降格です!」


侍従長は薄く微笑みながら、

ティーセットを置いた。


俺はカップを取る。


「コーヒーは?」


「ご用意しております。どうぞ」


俺のカップにコーヒーが注がれる。


「さすがだな。で……」


俺はコーヒーを一口飲む。


「国務卿の件、どうなった?」


魔王が腕を組む。


「簡単ではない」


「だろうな」


侍従長が説明を引き取った。


「現在、拘束中です。

 証拠は十分ですが……」


「処刑は難しいか」


「はい」


侍従長は静かに頷いた。


「戦時中です。

 政争を激化させる判断は避けたい」


魔王が続ける。


「だが、権力からは外す」


「失脚か」


「左遷、監視、資産凍結。

 二度と表には出られぬ」


十分だろう。


その時、ふと思い出した。

俺はコーヒーを置き、聞いた。


「なぁ、

 そう言えば…勇者ユウキはどうなった?」


侍従長が少し考える。


「……確かに」


魔王も眉をひそめた。


「報告を受けておらぬな」


「戦時中ゆえ、

 後回しにされている可能性があります」


「確認しておけ」


「承知しました」


「あと、梅毒の件だ」


「承知しております。

 感染経路の事実を公表します。

 ですが……」


「時間がかかる、だろ?」


「……えぇ。その通りです」


「都合が悪くなる連中も、多いだろうからな。

 それに、戦時中に公表しても拡散も弱いだろ」


「よく、お分かりで」


「ちなみに、公表する時……

 カイムのレポートを使え」


「カイム殿の?」


「あぁ。

 あいつが後方支援部隊なのは知ってるだろ?

 上官宛に”梅毒感染経路”について、

 レポートを提出している。

 ……世間体的にもいいだろ?」


「どういう事だ?」


ザッツが聞いてきた。


「実は梅毒の感染は粘液感染だったけど、

 みんなを誘導するために、

 空気感染って風潮しました――

 ってやるより、研究結果から、

 そうであることが判明した――

 ……どっちが混乱が少ない?って話だ」


「あぁ、そういう事か。

 なぁ?ちなみに粘液感染って何だ?」


「ザッツ、子供達を相手に仕事するんだ。

 後で教えてやるから、

 感染症について勉強しろ」


「頭使うのは苦手だ」


「だから俺に負けるんだろ?」


「ちっ……わーったよ」


「お前、魔王の前って忘れてないか?」


ザッツは急に姿勢を正す


「お、お見苦しい所を!失礼しました!!」


侍従長は笑いを堪えながら……


「ま、まぁそういう事です。

 ご理解して頂き、ありがとうございます。

 そして、カイム殿のレポートの件——

 私の方でも確認させて頂きます」


「頼む。

 カイムもカイムなりに、

 スズのためにやってるんだ」


魔王が笑いながら言う。


「スズか……

 あの娘、幸せ者だな」




一瞬、沈黙が落ちる。




俺はゆっくり口を開き、

空気を変える。


「本題に入るぞ」


侍従長を見る。


「例の件、進んでるか?」


侍従長が小さく笑った。


「もちろんです」


魔王が頷く。


「お前の提案は面白い」


ザッツが恐る恐る口を開いた。


「……あの」


三人の視線が向く。


「提案って……?」


俺は肩をすくめた。


「孤児院を中立地帯にする」


「中立?」


侍従長が説明する。


「魔族と人間。

 双方が手を出せない場所にするのです」


「どうやって?」


「第三国の監視を置きます」


ザッツが目を丸くする。


「外交問題にするってことか……」


「そういうこと」


俺は笑った。

魔王が顎を撫でる。


「うってつけの国がおる」


「どこだ?」


侍従長が答えた。


「ドワーフ族の国です」


「ほう」



――いるんだ、ドワーフ。



「魔道具加工で我が国と交易も盛んです」


侍従長は俺を見る。


「それに、イロハ殿の魔石。

 加工にも、非常に相性が良いかと」


俺は少し考える。



――ドワーフはテンプレ設定、か。



「鍛冶向きってことだな?」


「えぇ。技術者集団です」


悪くない。

むしろ……



――面白い。



「じゃあ決まりで」


魔王が笑う。


「話が早い」


その時だった。


「な、なんかスゲェ話がポンポン出てくるな…」


ザッツの手が震えていた。


「そう言えば……魔王って軍のトップになるのか?」


「えぇ。表向きはそうなりますね」


「ふん、所詮お飾りだがな」


「い、いえ!そんな事は!!」



ガタンッ――



ザッツは急に立ち上がり、

そして、カップが傾く。


「――あ」


次の瞬間。


コーヒーが派手にこぼれた。


「も、申し訳ございません!!」


ザッツが床に土下座する。


「魔王様のコーヒーをぉぉぉ!!!」


「良い。落ち着け」


魔王が苦笑する。

侍従長も肩を震わせている。


俺はザッツを見る。


真っ青な顔。

完全にパニックだ。


俺は小さく笑った。


「やっぱりこいつ、面白いな」





【第五部 完】


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

「この構造、ちょっと面白いな」と思ったら、


ブックマークや評価で教えてもらえると嬉しいです。

今後の展開設計の参考にさせてもらいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ