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【第5部】第32話 帰還

教会の外に出ると、

夜の空気が冷たかった。


まだ夜明けには時間がある――

そんな空だった。


入口の前には、

すでに侍従長と魔王直属の衛兵がいた。


倒れている騎士修道会の連中は、

一人ずつ連行されている。


俺とザッツが近づくと、

侍従長がこちらへ歩いてきた。


「イロハ殿」


軽く頭を下げる。


「中の状況は?」


「国務卿が奥の部屋で寝てる」


俺は肩越しに教会を見る。


「他にも数人、寝てるだけだ」


侍従長は静かに頷いた。

そして振り返る。


「内部に侵入して下さい。

 全員連行をお願いします」


「はっ!」


衛兵たちが一斉に教会へ入っていく。

鎧の音が響いた。


侍従長は再び俺へ向き直る。


「イロハ殿。この度は謝罪と感謝を。

 実は評議会が——」


「そういうのはいい」


侍従長の言葉を遮る。


「スズは?」


侍従長は一瞬だけ目を細め、そして頷いた。


「失礼しました。スズ殿は無事です。

 カイム殿と共に孤児院へ戻られております」


小さく息を吐く。


「そうか」


「念のため、明日、

 お話をお伺いさせて頂ければと……

 よろしいですかな?」


「スズの状態次第だ」


「承知しました」


侍従長は静かに頷く。

そして視線を横へ向けた。


ザッツだ。


「……で、そちらの方は?」


少し首を傾げる。


「確か、元軍にいた——」


「——こいつは」


俺はザッツを親指で指す。


「毒見役兼用心棒だ。

 ウチの新入り」


ザッツが横で鼻を鳴らす。


侍従長は少し沈黙した。

それから、ふっと笑う。


「……そういうことにしておきましょう」


そしてザッツを見て言う。


「念のため、首輪はかけておいて頂きたい」


俺はザッツを見る。


「だ、そうだぞ……」


少し間を置く。


「ポチ」


「誰がポチだ」


即答だった。

俺は笑いながら、伝える。


「後の事は任せる。

 ……今回の事もある。例の件、早めに頼むぞ」


侍従長の目がわずかに鋭くなる。


「かしこまりました」


横でザッツが言う。


「例の件って何だ?」


「ポチにはまだ早い」


「はいはい、そうですかー」


俺は背を向ける。


「行くぞ」


ザッツが肩をすくめてついてきた。






孤児院の扉を開けると、中は静かだった。


もう夜明けだ。

子供達は寝ている。


俺はザッツをホールで止めた。


「ここで待て」


「ほう……」


ザッツは周りを見回す。


「随分まともな所だな」


「子供の家だ」


「なるほど」


「静かにしてろよ」


ザッツは壁にもたれた。

俺は廊下を進む。


スズの部屋の前で止まり、扉を開けた。


部屋の中にはカイムがいた。

椅子に座り、腕を組んでいる。


ベッドではスズが眠っていた。

静かな寝息。


カイムが小さく言う。


「……ショック症状は出ていないぞ」


「そうか」


俺はベッドの横に立つ。


スズの顔は穏やかだった。


「後な……」


俺は顔を上げる。


「?」


カイムは少しだけ笑った。


「『来てくれてありがと』って言ってた」



沈黙。



俺はもう一度スズを見る。


眠ったままの顔。


小さく息を吐く。


「そうか」


俺はそっと手を伸ばす。


スズの髪を、静かに撫でた。


そして手を離す。


振り返り、部屋を出た。


扉を静かに閉めた。

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