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【第5部】第31話 武人

廊下は静かだった。

戦闘の音はもう聞こえない。


執務室から出て、

すぐ右の壁には白魔道士が肘を抑えていた。


俺を睨むその目は、涙目。


縄は足にかけてあった。



――カイムなりに気を遣ったんだろうな。



俺は白魔道士を一瞥して、廊下を進む。


途中、一人の男が座り込んでいた。



――ザッツ……って言ってたな。



両手は縄。

脅威はない。

威嚇もない。


「……来たか」


ザッツは小さく笑った。


「お前に……殴られた、よな?」


「あぁ。殴った」


ザッツは奥を見て、

視線を俺に戻す。


「終わったのか?」


「終わった」


「あの騎士は?」


「寝てる」


ザッツが笑う。


「だろうな」


俺は何も言わない。


ザッツを通り過ぎようとした、

その時――


「全然見えなかった」


俺は足を止める。


思い出す、ザッツの立ち姿を。

見る、体格を。



――普通にやり合えば、俺は勝てないな。



「なぁ……」


「なんだ?」


「もう一回、戦ってくれ」


「……今はやらん」


「なんでだ?」


「忙しい」


ザッツが笑う。


「そりゃ残念だ」



少し沈黙。



ザッツが言う。


「次は落ちねぇ」


俺は少し考える。



――戦闘狂か……


――敵になるのは厄介、だな。



そして言う。


「再戦したいか?」


「お!?その気になったか!?」


「再戦したいなら、俺の所で働け」


ザッツの眉が動く。


「……は?」


「部下になれとは言わん

 雇うだけだ。再戦はその時だ」



沈黙。



ザッツはしばらく黙る。


そして、笑う。


「面白いな」


立ち上がる。


「宗教の犬よりは、よっぽどマシだ」


「ただし……」


「?」


「勝手な争いは自己責任の範囲でな」


ザッツは鼻で笑う。


「安心しろ」


少し前に出て、

そしてニヤリと笑う。


「強い奴にしか興味ねぇ」



沈黙。



俺は扉の向こうを指す。


「中の奴は侍従長に引き渡す」


「ほう」


「お前はどうする?」


ザッツは少し考え、

そして言った。


「雇われてやる。

 ただし、給金はいらん」


「?」


「再戦だけでいい」



沈黙。



俺は小さく笑った。


「変な奴だな」


「よく言われる」


「再戦とは別だ。金は出す。飯も出す。

 頼みたいこともあるからな」


俺は縄を解く。


「味にはうるさいぞ?」


「心配するな。

 そんじょそこらの飯より――」


ザッツは被せ気味に聞く。


「——美味いのか?」


「美味い」


俺はザッツを見る。




「子供達の作る飯はな」




二人は歩き出す。

廊下の向こう。

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