【第5部】第30話 嘘
部屋は静かだった。
さっきまで、
人が倒れる音が響いていたとは、
思えないほど静かな空気だった。
俺の目の前には、国務卿。
二人の距離は三歩ほど。
床には、
縛られた剣士と法衣の男、
魔法使いの3人が転がっている。
国務卿はゆっくり息を吐いた。
額に汗が浮いている。
だが、目はまだ死んでいない。
俺は聞いた。
「サークル・ゲームって知ってるか?」
国務卿の眉が動く。
俺は指で輪を作った。
OKサイン。
「これを見たら殴られるゲームだ」
ゆっくり手を下ろす。
「まあ、今回は特別だ」
一歩近づく。
「嘘をついたら殴られる」
国務卿の喉が動く。
「ど、どう嘘だと判断する?」
俺は答えた。
「簡単だ」
静かに国務卿を見る。
「俺が嘘だと思ったら嘘だ」
国務卿の顔が歪む。
「そ、それはあまりにも——」
「ズルいか?」
少し首を傾ける。
「人を拉致った奴が言える立場か?」
沈黙。
国務卿は何も言わない。
俺は後ろの机に体重を預け、
軽く拳を握る。
「第一問」
国務卿の肩がわずかに震える。
「スズを拉致したのは誰の指示だ?」
沈黙。
俺は机を軽く叩いた。
コツン――
それだけの音。
だが国務卿の体がビクリと揺れる。
「……答えろ」
国務卿は口を開く。
「……私だ。私の判断だ」
「お前は国務卿、だよな?」
「……はい」
「宗教に関与している」
「はい」
「政治にも関与しているか?」
「……」
机を叩く、
コツン――。
「……している…わ、私は評議会の一員だ!
私に手を出してみろ!
神も国も私に力を貸してくれるぞ!!」
「それは、怖い」
ゴツン――!
強目に机を叩く。
国務卿の肩が跳ね上がった。
「次だ。
魔石の件、評議会の命令か?」
「……違う」
「つまり?」
「私の独断だ」
俺は小さく頷いた。
「そうか」
少し歩く。
次の質問。
「魔石のことは、どこで知った?」
国務卿は迷わなかった。
「諜報員だ。
孤児院を調べさせた」
俺は目を細くする。
「何に使うつもりだった?」
沈黙。
国務卿は視線を逸らす。
俺は何も言わない。
ただ待つ。
数秒。
国務卿が答える。
「……軍事利用だ。それと――」
短く息を吸う。
「——商売」
「なるほど」
少し笑う。
「戦争と金か」
国務卿は黙る。
俺は机に腰を降ろした。
「宗教はどうだ。
お前らは何を信じてる?」
国務卿は即答した。
「女神だ。女神の教えだ」
「女神は何を言う?」
「お告げをくださる」
「それで国を動かす?」
「そうだ」
俺は軽く息を吐いた。
「便利だな」
国務卿の顔が歪む。
「……侮辱するな」
無視――
「献金もあるよな?」
国務卿は黙る。
俺はゆっくり近づく。
沈黙。
国務卿が小さく言う。
「……ある」
「他の孤児院は?
お前達が管理してるのか?」
国務卿は答える。
「教会管理だ。各地にある」
「孤児が多い理由は?」
「戦争孤児」
「それだけか?」
沈黙。
国務卿は視線を落とす。
「……信者の献金」
「つまり、
献金で金を巻き上げ、家庭は崩壊。
その金で教会を維持し――」
少し間。
「——魔石利権まで手に入れるつもり、か」
国務卿は答えない。
だが否定もしない。
沈黙が答えだった。
「最後の質問だ」
国務卿が顔を上げる。
「梅毒」
国務卿の体が一瞬固まった。
俺は続ける。
「スズは梅毒感染者だ」
「……」
「その反応、お前らは知ってるな?
梅毒は、空気感染しない」
沈黙。
国務卿は答えない。
机を叩く。
ドン――。
強目にもう一度。
ドン――!
国務卿が震える。
「答えろ」
長い沈黙。
そして、
国務卿は小さく言った。
「……知っている」
「教会が、嘘を広めたな?」
国務卿は言う。
「……社会秩序のためだ」
俺は笑った。
短い笑い。
「なるほど」
机から降りる。
そして、
国務卿の目の前で立ち止まる。
「最後の最後だ」
国務卿の顔が青い。
「女神が好きなのは――」
俺は目線を合わせる。
「パンケーキとクレープ……どっちだ?」
国務卿が目を見開く。
「なっ!?
そんなもの知ら――」
「女神の声が聞けるんだろ?」
国務卿の額から汗が落ちる。
数秒。
そして――
「……クレープだ」
沈黙。
そして――拳。
国務卿の体が床に転がる。
「嘘だ」
国務卿が呻く。
「な……何を……」
俺は静かに言った。
「クレープは、まだ食わせてない」
部屋が静まり返る。
国務卿は何も言えなかった。
俺は扉へ歩く。
振り返らない。
「安心しろ。殺さない」
扉に手をかける。
「侍従長に引き渡す」
静かな声で。
「お前達の法律に裁かれろ」
そのまま部屋を出た。




