【第5部】第29話 逆転
重い扉が開く。
その瞬間、
部屋の中の全員が振り向いた。
俺は部屋を見渡す。
――スズ。
スズと目が合う。
俺は頷き、視線を移す。
――剣士っぽいのが1人……
――脱力姿勢か……強いな、こいつ。
――法衣を着てる奴もいるな。
――ローブを着てるのは魔法使いだろ。
――で、国務卿か。
剣士っぽいのが剣を抜いた。
「侵入者——」
言い終わる前だった。
俺は足裏魔法ダッシュで距離を詰め、
法医の男に前蹴りを放つ。
バゴッ――!!
後ろに吹き飛ばされた男は
壁に激突する。
「……すまん。生きてるか?」
ちょっと焦る。
法衣の男はうめき声をあげ、
その場にうずくまった。
――死んでないな、よし。
そして、
――場所取りも成功したな。
隣、目と鼻の先に国務卿とスズ。
正面、机を挟んで剣士。
その中間、壁寄りに魔法使い。
俺は隣の国務卿を一瞥する。
「……っ!」
次の瞬間、
魔法使いが詠唱を始めた。
――足裏魔法ダッシュ。
使用する指の本数分、
魔法の威力を調整する。
一瞬で、
距離が消える。
顎に拳を叩きつける。
魔法使いの頭が跳ね上がり、
そのまま崩れ落ちた。
残るは剣士。
俺は間を取る。
移動の間、
剣士は正中に剣を構え、
必ず、俺の正面を向いている。
――遮蔽物、無し。
右足で足裏魔法ダッシュ――
一気に距離を詰める。
が、剣が閃く。
――チッ、タイミング盗まれたか。
左足を地面に叩きつけ、
左足から足裏魔法ダッシュで、勢いを相殺。
でも慣性は働く。
この慣性を利用して、
投球モーションのファイアーボールを放つ。
剣士は一瞬、驚いた顔を見せるが、
剣の腹で火球を受け止めた。
爆炎。
俺は一瞬で姿勢を戻し、
左足で足裏魔法ダッシュを放つ。
空中に跳ぶ。
――アイスショット!
剣士がいた場所の頭上、
その少し横に胴体程の氷の塊が現れる。
――まだ、だ。
俺はそのまま、右足を振り上げる。
――空中なら、反作用も糞もない!
右足踵からファイアーボールを放つ。
蹴る速度が加速される。
爆炎が晴れる。
剣士は驚愕し、横に――
――解除!!
氷の塊は剣士の足に落ちる。
剣士の足は完全にへしゃげた。
そして、俺は……
「どわっ!?」
右足の蹴りの速度が速すぎ、
見事に着地を失敗する。
「おい……
だから、最後はかっこつけろって」
「初めてやったからな」
俺はカイムの突っ込みに軽口を吐く。
埃を払い、立ち上がった。
「……早く氷どかさないと、
右足、死ぬぞ?がんばれ」
剣士の男に一言伝えるが……
それどころではない表情だった。
カイムがゆっくり歩いてくる。
縄を取り出し、
倒れた奴らの腕を縛りあげた。
俺はすでに別の方向を見ていた。
部屋の奥、椅子。
そこにスズがいた。
スズもこちらを見ていた。
一瞬の沈黙。
カイムが先に動いた。
スズの側に寄る。
「スズ!」
縄はない。
だが立ち上がれない様子だった。
カイムが軽く肩を支える。
「大丈夫か」
スズは小さく頷いた。
「……うん」
カイムは俺を見る。
「スズは無事だ」
「ああ」
ゆっくり歩き、
スズの前で止まる。
「スズ」
スズが顔を上げる。
俺は静かに言った。
「もう大丈夫だ」
短く間を置く。
「よく戦ったな」
スズの目が少しだけ緩む。
「……うん」
俺はカイムを見る。
「カイム、送り届けろ」
カイムが頷く。
「分かった」
俺は続ける。
「あと、侍従長に報告を入れとけ。
教会と話す準備をしておけってな」
カイムは少しだけ眉を上げる。
「……了解」
スズが俺を見る。
「……無茶しないでね」
軽く肩をすくめた。
「大丈夫だ。
……ここからは、”大人”の時間だ」
カイムはスズを支えながら歩き出す。
扉が閉まる。
部屋に残ったのは二人。
俺。
そして、国務卿——
国務卿は椅子に座ったままだった。
顔色は青い。
だが、
完全に取り乱してはいない。
俺はゆっくり歩き、
国務卿の前で止まる。
「なぁ」
国務卿は何も言わない。
「サークル・ゲームって知ってるか?」




