【第5部】第28話 侵入者
教会本部前——
カイムは静かに息を吐いた。
目の前にあるのは巨大な建物。
白い石で造られた宗教の象徴。
そして。
「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……」
「……」
俺はゆっくり走っていく。
「待ったぞ。
急ぐもんだと思って、先に飛んで来たが……」
俺はカイムの隣に立ち、
今度は肩を、足を回した。
「……準備体操か?」
俺は肩を回したまま答えた。
「関節は温めた方がいい。
今回は……全力出すかも、な。
壊す時、楽だ」
カイムはため息をついた。
「ほどほどにな」
俺は歩き出し、
正面玄関前で止まる。
騎士修道会の騎士が立っていた。
「止ま――」
――足裏魔法ダッシュ。
その言葉が終わる前だった。
ドン――
鈍い音。
騎士が横に吹き飛んだ。
カイムは小さく呟く。
「始まったな」
次の騎士が剣を抜く。
しかし。
――遅いな。
足指で出力を調整、
数本の足指からファイアーボールを射出。
反作用を利用し、一気に距離を詰める。
その勢いのまま、
左拳を胸当ての下、左腹部に叩き込む。
異変に気づいた騎士が次々とやってくる。
抜剣する前に、
怒号が飛ぶ前に――終らせる。
足裏魔法ダッシュからの、
顎――
鳩尾――
膝――
次々と騎士が床に沈む。
一切の躊躇はいらない。
カイムはその後ろを歩く。
「よっこら……」
倒れた騎士の腕を取る。
縄。
縛る。
「よっこら……」
また一人。
「よっこら……」
もう一人。
前では俺が殴り飛ばし、
後ろでカイムが縛る。
奇妙な作業だった。
正面玄関を制圧し、
長い廊下を進む。
礼拝堂に出る。
誰もいない。
礼拝堂の横の通路を進む。
長い一本道の廊下。
廊下の奥——
一人の男が立っていた。
俺は立ち姿をサッと確認する。
――カイムが言ってた奴、だな。
カイムが耳元で呟く
「孤児院に来た、ザッツだ」
ザッツは低い声で言う。
「孤児院で会ったな。
で、残念ながら、ここから先は通さねぇ」
俺は目を細める。
――元軍人、だったな。
俺はゆっくり、歩き出す。
ザッツは剣を構えた。
そして、
俺は立ち止まり、腕を上げた。
――ワインドアップ……
肩。
肘。
手首。
滑らかな動き。
完全な投球モーション。
ザッツが眉をひそめた。
「?」
次の瞬間――
火球。
ザッツの目が見開く。
「魔法!?」
咄嗟に横へ跳ぶ。
火球が壁を爆ぜた。
しかし、
その瞬間だった。
――足裏魔法ダッシュ。
床を蹴る。
一瞬で距離が消える。
「なっ——!?」
左フック。
空気が鳴る。
拳が顎をかすめた。
男の目が白くなる。
そのまま崩れ落ちた。
沈黙。
カイムが歩いてくる。
「……もう、お前の戦闘には慣れたよ」
縄を取り出す。
倒れた男の腕を取り、縛る。
カイムが縛り終わるのを待ち、
そのまま廊下を進む。
やがて、
重い扉の前。
白いローブの男が立っていた。
カイムが呟く。
「……白魔道士、か」
男は両手を前にかざし、詠唱。
半透明の光が現れた。
それを見たカイムが言う。
「魔法障壁……厄介だな」
「関係ない、そんなもの」
俺はゆっくり歩を進める。
白魔道士が震えた声で叫ぶ。
「こ、ここは、
国務卿の——!?」
俺は障壁に手を触れる。
右手——
アイスショット。
そして、
コンマ数秒遅れて。
左手——
バースト。
障壁と爆発魔法が共振する。
パキンッ――
ガラスが割れるような音が静かに響く。
次の瞬間、
魔法障壁が粉々に砕けた。
カイムは目を細め、
独り言の様に呟く。
「また無茶を……」
俺の両手は凍傷と外傷。
カイムは無言で手を取った。
回復魔法——
淡い光。
傷が治る。
白魔道士は腰を抜かしていた。
俺は近づき、しゃがみ、
手を差し出す。
「立てるか?」
白魔道士は震えながら手を取る。
その瞬間——
男の手を引き込む。
胸元へ。
手首を外側に捻る。
同時に、
もう片方の手で肘の外側を固定。
次の瞬間、
バキッ――
嫌な音。
そして、白魔道士の悲鳴。
「えげつないことするな……」
俺は何も言わない。
「……まぁ、それだけ怒ってるってことか。
俺も同じだ。すまんが、同情はしないぞ」
カイムは白魔道士を一瞥した。
目の前の、大きな扉を見る。
国務卿の部屋——
俺は迷わず手をかけた。




