【第5部】第27話 無言という答え
教会本部——
国務卿の執務室。
部屋の中央、
一脚の椅子。
そこに、スズが座らされていた。
縄で縛られているわけではない。
だが両脇には騎士。
逃げ場はない。
スズは黙って前を見ていた。
部屋の奥。
大きな机の前に国務卿が立っている。
静かな男だった。
感情はほとんど表に出ない。
扉には二人――
昼間見た人と白いローブを着た小柄な男性。
――多分、白魔道士……
国務卿の周囲にも三人。
騎士修道会の上級騎士と魔道士。
そして神官。
神官は淡い光をまとっていた。
聖魔法、
嘘を見破る術を使っていた。
「スズ」と名乗ったら、嘘と言われた。
本当の名前は知らないけど、
イロハがつけた名前。
――ちょっと落ち込むな……
国務卿が口を開く。
「嘘はいけませんよ?
でも今は、名前なんてどうでもいいです」
「……」
「では、お聞きしますね」
穏やかな声だった。
「魔石は、どのように作るのですか?」
スズは黙っている。
国務卿は続ける。
「イロハ殿が作るのですか?
それとも……あなたですか?」
沈黙。
国務卿は軽く肩をすくめた。
「困りましたね」
扉付近から声が響いた。
「国務卿、尋問はまだ続けるのか?」
国務卿は頷いた。
「ええ。時間はあります」
「悪ぃが、俺は尋問に興味ねぇ」
低い声。
男は上級騎士を見る。
「俺は外で待つ」
上級騎士は頷く。
「構わん」
そして上級騎士は、
白魔道士へ視線を向けた。
「お前は扉を守れ」
白魔道士が首を傾け、
軽い声で返した。
「ザッツさんが廊下にいれば、
問題なくないですか?」
上級騎士は鼻で笑った。
「仮にも、
勇者を制圧した男だ。
守りは固めておいた方がいい」
白魔道士は小さく笑う。
「はーい。
そっかー、だからかー。
ザッツさん、ウズウズしてるの」
軽い調子で言うと、
そのまま廊下へ出ていった。
「お前達も廊下を見張れ」
スズの横にいた騎士二人も部屋を出る。
扉が閉まった。
部屋には五人。
国務卿。
上級騎士。
魔道士。
神官。
そしてスズ。
国務卿は椅子に腰を下ろした。
「さて、続けましょう」
静かな声だった。
「魔石……
非常に興味深い技術です。
国家の構造を変える」
スズは何も言わない。
国務卿は続ける。
「イロハ殿は、
どこでその知識を得たのですか?」
沈黙。
国務卿は神官を見る。
神官は静かに頷く。
聖魔法――
嘘は見抜かれる。
つまり、
スズの選択肢は一つだった。
『無言』
国務卿は小さく息を吐く。
「困りましたね」
その時だった。
廊下の向こうで、
何かがぶつかる音。
ドンッ――
続けて、鈍い音。
ドン――
上級騎士が眉をひそめる。
「……何だ?」
さらに音。
何かが倒れる。
そして……沈黙。
国務卿は顔を上げた。
少しだけ口元が緩む。
「おや?」
穏やかな声で言った。
「イロハ殿が、
いらっしゃったようですね」
一拍置く。
「お早いですね」
その瞬間。
廊下の奥から、
誰かの悲鳴が響いた。




