【第5部】第22話 灯りの実験
翌日――
私は閣下の言伝をお伝えするべく、
再び、孤児院の門をくぐった。
その瞬間、足を止めた。
「……これは」
庭の中央、
イロハ殿が地面に座り込んでいる。
その周囲に――
半透明の石。
十個——
二十個——
三十個——
まだ増えている。
「……何をしているのです?」
イロハ殿は顔も上げない。
「見りゃ分かるだろ」
右手を空間に向ける。
体を巡った魔力が、 空間へ解き放たれる。
ピキッ――
乾いた音。
そして、
コトン。
また一つ、 半透明の石が地面に落ちた。
私は額を押さえた。
「……量産、ですか」
「検証も兼ねてな」
イロハ殿は淡々と言う。
「昨日のが偶然かもしれん。
それに、何個作れるかも分からん。
だから検証だ」
また一つ。
ピキッ。
石が生まれる。
「……何個作るつもりです?」
「とりあえず五十」
私は、しばらく黙ってしまった。
「……閣下からの言伝があります」
「ん?」
「各種案件については了承したと」
イロハ殿は頷くだけ。
私は続ける。
「ただし、交易については、
関係各所への調整が必要との事です。
人間国との取引ですからね。
許可が下りるまで、少々時間を有すると」
イロハ殿は鼻で笑った。
「お役所仕事だな」
私も肩をすくめる。
「えぇ」
一拍。
「お役職のお仕事ですので」
その時——
イロハ殿が一つの魔石を放り投げた。
私は反射的に受け取る。
「カイムが込めた」
「……?」
「光の魔法、入れてある」
石を見つめる。
――確かに。
内部を魔力が静かに巡っている。
「魔力を流せ」
言われるままに、私は魔石へ魔力を流す。
ポッ――
柔らかい光が灯った。
「……」
私は黙ったまま、 魔石の光を見つめる。
「……十分な明るさですね」
「街灯にする」
「なるほど」
イロハ殿は顎で庭の奥を指した。
「他にもあるぞ」
顎の先は
孤児院の奥。
そこでは――
子供達が輪になっていた。
中央にカイム殿が座っている。
その周囲に並ぶ魔石。
子供が石を持ち、魔力を流す。
ポッ――
小さな光。
「出来た!」
「やった!」
子供達が笑う。
私は歩み寄り、声をかける。
「カイム殿」
カイムが振り返る。
「侍従長殿ですか」
「子供達にも?」
「えぇ」
カイム殿は頷いた。
「料理が苦手な子も、いますから」
子供がまた一つ、 光の魔石を掲げる。
「それに」
カイム殿は笑った。
「魔法の練習にもなります」
「……なるほど」
私は子供達を見回す。
子供達の笑い声が庭に広がる。
楽しそうだった――
「では」
袖をまくり、
「私も手伝いましょうか」
カイム殿は笑った。
「助かります」
一つ魔石を差し出す。
「帰りに……よろしかったら、
屋台飯でもご馳走させて下さい」
私は微笑んだ。
「えぇ」
魔石を受け取る。
「それが目的ですから」
子供達が笑う。
光が一つ、また一つ。
庭に灯っていく。
夜は、まだ遠い。
孤児院の外——
塀の影。
黒いローブの男が、静かに庭を見ていた。
その視線は、子供達ではない。
地面に積まれた――
魔石。
大量の魔石。
男の喉が小さく鳴る。
「……これは」
震える声で呟く。
「至急報告せねば……国務卿へ」
視線はまだ、孤児院を見ている。
そこには――
笑い声。
灯り。
そして、
――金の匂い。
男は闇の中へ消えた。
孤児院の灯りは、 まだ増え続けていた。




