第12話 魔法に身体を合わせるな
マジックバッグ購入に向けて、
Eランクの依頼を次々に受けていた。
そんなある日——
掲示板に一枚の依頼書を見つける。
“フォークレイル”
”鹿様の魔物、討伐と角の素材回収”
――ん?
依頼書に書いてあるイラストを見る
「……こないだの魔物、だな」
――なら問題ない。
俺は掲示板から依頼を外し、森へ向かった
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
森の奥で、足が止まった。
「……鹿どころじゃないな。この森」
――デカい。
黒毛の塊が、ゆっくりとこちらを向いた。
四足。
低い重心。
肩の位置が、俺の胸より上にある。
「……熊か」
予定の鹿ではない。
今は、そんなことどうでもいい。
分かるのは一つ。
――殴ってどうにかなるサイズじゃない。
距離は約二十メートル。
熊なら……
この間合い、走れば一瞬だ。
――なら、先手を取る。
右足を半歩引く。
体幹を締め、肩を入れる。
反作用を受ける体制を作り……
ファイアーボール――
……が、遅い。
姿勢から射出までの動作が遅い。
魔法を放つ頃には、
熊はすでに横に跳んでいた。
直撃コースだったはずの火球は、
地面を抉って弾ける。
「チッ」
次を――
そう思った瞬間、視界が迫る。
――くっ!速い!
巨体のくせに、踏み込みが異常に軽い。
――避けきれん!!
咄嗟に体を捻る。
風圧と、土を抉る音。
爪が地面を裂いた。
俺は転がる。
受け身を取り、すぐに立つ。
心拍が一気に跳ね上がる。
――今の、直撃してたら終わってたな……
距離を取る。
だが、熊は止まらない。
追ってくる。
呼吸を整えながら、頭を回す。
――撃つまでが遅い。
反作用を受ける姿勢を作る時間が無駄だ。
それに、
反作用を受ける前提で、体を固めている。
だから余計に初動が遅れる。
――色々、無駄があるな……
熊が地面を蹴った。
もう一度来る。
今度は撃たない。
横へ、最小限でずらす。
土煙。
すれ違いざまの風圧。
ギリギリ――
――クソっ!
この距離で撃ったら、
反作用で体が持っていかれる……
距離を保ったまま、走る。
逃げながら、観る。
足運び。
重心移動。
前脚の入り。
速いが、重い。
――なら、下りならどうだ!?
斜面へ誘導する。
傾斜に入った瞬間、熊の動きがわずかに鈍る。
――やっぱりな。
だが……
熊が止まった。
こちらを一瞥する。
興味を失ったように、
鼻を鳴らし、背を向けた。
「……は?」
そのまま、森の奥へ消えていく。
残されたのは、
荒れた地面と、自分の呼吸音だけ。
しばらくその場に立ち尽くし、
ふう、と息を吐いた。
「……死ぬな、これ」
さっきの一撃――
当たれば終わっていたのは、向こうじゃない。
こっちだ。
もう一度、手を見た。
さっきと同じように構える。
――無駄が多い。
姿勢作り。
反作用を受ける前提。
出力は高いが、間に合わない。
「やはり……
魔法に身体を合わせてる時点で、ダメか」
逆だ。
身体に、魔法を合わせる。
――このままじゃ、いつか死ぬ。
俺は一つ息を吐く。
「……鹿、探すか」
熊の気配に気をつけながら、
俺は森を歩き出した。




