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【第5部】第15話 仮説

水の音が、静かに続いている。


皿についた甘い跡を、指でなぞり、流す。

鉄板も洗う。

焦げは、ほとんどない。



――……よく食ったな、あの猫。



猫にしては大き過ぎるパンケーキ。


胃の内容物も女神に行くのか?

魔素で作られてるから、関係ないのか?



――そもそも…


――女神の感情は魔素に関係ないのか?



甘味は幸福物質だ。


魔素が負の感情で増幅するなら、

真逆の反応が起きるはず……


「気にしてもしょうがないか」



――甘味は、交渉材料になる。



とりあえず、甘味への依存を信じる。

何かあれば、会いに来る理由になる。



――話の内容はともあれ、


――接点を残しておくのは都合がいい。



蛇口を少し強める。

水の音の中で、 思考を整理する。



――さて。



まず、女神の目的だ。


『魔王を殺せ』と言った。


『評議会も排除できる』とも。



つまり――

魔族の殲滅、もしくは、戦争の拡大。



戦争になれば、負の感情が増える。



恐怖――


怒り――


憎しみ――


魔素は濃くなる。



――質の高い魔素、か……



そこで、引っかかる。


『普段、何を食ってる?』その答え。


あの時、女神は言いかけた。


『ま……』


そして、言い直した。


『お供え物』


手を止める。



――たぶん、違うな。



お供えは、嗜好品。

本体は、別だ。


水を止める。



――魔素、だな。



魔素は、感情で質が変わる。


戦争で濃くなる。


そして、女神はそれを“必要としている”。


飯は、 生命維持装置だ。


なら――


魔素は、女神の命そのものか。




タオルで手を拭く。


「供え物と言えば教会、か」



――……正直、宗教に興味はない。



教会はあちこちにある。

人間の国にも、魔族領にも。


共通点は一つ。



信仰——



ただ、何を祀っている?

もし、あれが女神を祀っているなら……



――話は変わる。



人間側では、魔族は悪――


魔族側でも、人間は敵――


対立の固定化。


宗教で煽れば、感情は長く続く。

恐怖も、憎しみも、正義になる。


しかも――


もし、両方が、

同じ存在を信じているとしたら。


「……たちが悪いな」


呟きが漏れる。


たちが悪い、と言えば魔王の件もそうだ。


女神は言った。


『当代の実力が分からない』と。


つまり、直接関与は少ない。

でも、戦争は動いている。


あのオッサンは、平和主義だ。


なら――


動かしているのは、別。



――評議会か。



魔王と評議会。

関係は、良くない可能性が高い。




ふぅ……




息を吐く。



――……まぁ、いい。



全部、仮説だ。

証拠は、何もない。


ただ――


もし、 当たっているなら、

この戦争は、偶然じゃない。


少しだけ、面倒なことになる。


蛇口を閉める。

鉄板を立てかける。


まぁ……



――戦争は政治家の仕事だ。


――勝手にやってくれ。



考えるのをやめて、外を見る。

子供が走っている。


小さく呟く。


「クレープ、作ってみるか」


甘いもんは、 よく人をしゃべらせる。

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