【第5部】第14話 対等
静かに、猫――いや、女神は口を開く。
『……なんじゃ?パンケーキとは?』
あれ以上の詰問は危険、と判断した。
怒りの感情は厄介だ。
感情論は、嫌でも爆発した方が主導権を握る。
――感情論は、苦手だ。
あのまま進めたら、主導権は女神になる。
なら、無理やり俺のペースを維持させる。
――情報収集しながら、だけどな。
「小麦を甘く練って、焼いたものだ。
見てなかったのか?」
『甘味か?
うむ……見ておらんな』
「ちょうど、その時だぞ?
魔王から“戦争”の事を聞いたのは」
『常に誰かを、
注視しておる訳ではないからな』
――なるほどな。
「で、食うのか?
というか……猫に食わせて意味あるか?」
『感覚は繋がっているから、問題ないぞ。
実は……甘味は久しぶりなのじゃ♪』
「久しぶり?
女神さんは、いつも何を食っているんだ?」
『ま……コホンッ。
基本は“お供え”物じゃ。
嗜好品は稀なのじゃよ』
――ふーん。
「なら、しっかり甘くしてやる」
俺は猫を置き、厨房へ向かった。
ん?
――猫に蜂蜜っていいんだっけ?
数分後――
俺はパンケーキ片手にベンチに戻る。
「なぁ女神さん」
『待ち遠しかったぞ?
で、なんじゃ?』
「この猫、蜂蜜食べれるのか?」
『問題ないのじゃ!かけるのか!?
なら、タップリかけるのじゃ!』
「はいはい」
俺はパンケーキにタップリと、
ラベンダー風味の蜂蜜をかけた。
「ほらよ」
『頂くのじゃー!!』
猫がパンケーキに飛びつく。
一口食べ、目が見開く。
『なんじゃこれは!?
こんなフワフワした物があるのか!?』
「うまいだろ?」
『美味すぎるのじゃー!!』
あっという間にパンケーキは無くなった。
猫が皿を舐める。
ん?
女神が皿を舐めてるのか?
行儀が悪い女神さんだ。
猫はパンケーキに触れた手を舐めている。
『美味かったのじゃ〜』
「腰を治してくれた礼だ」
――これで貸し借りは0だ。
――さて、どう本題を切り出すか……
「なぁ女神さん」
『なんじゃ?また質問か?』
「魔法の反作用についてだ」
『反作用?
あぁ……お主を召喚した時に、
後ろに吹っ飛んだやつか?』
「そう、それだ。
あの時『おかしいですね』って言ってたが、
ユウキを召喚した時はどうだった?
ユウキと対峙した時、
反作用が無い様な気がしたんだが」
『ユウキも最初は吹っ飛んだわい!
あれはな、チートじゃチート』
――女神がチートを連呼するな。
『当代の魔王の力量が分からんのでな、
可能な限りの魔法と権能を付与したんじゃ』
「なら、魔法効率化……みたいな能力か?」
『その認識であってるぞ』
「当代の、と言ったな。
過去にも勇者召喚はしたのか?」
『やったがのう……
なかなか魔王討伐には辿り着かなんだわ』
「……もし、仮に」
一拍。
「魔王を殺したら、戦争は終わるのか?」
『可能性は高い』
「評議会を潰したら?」
『統制は崩れる』
「その後は?」
沈黙。
俺は続ける。
「権力の空白は、争いを生むぞ」
一拍。
「内戦になる可能性は?」
『……あるの』
猫を見る。
「女神さんの目的は、
戦争を小さくすることか?
それとも、戦争を無くすことか?」
沈黙。
『世界の安定じゃ』
「それは結果だろ」
一拍。
「目的は?」
風が止まった気がした。
やがて――
『……お主は、協力せぬのか』
「俺は俺が感じた様に動く」
即答した。
「でも安心しろ」
猫を見る。
「俺は、あんたの敵になる気もない」
『……』
「俺はな」
静かに言う。
「目の前のやつ優先なんだ」
一拍。
「結果として、
あんたの思惑とズレたら――」
少しだけ笑う。
「そっちで調整してくれ」
沈黙。
猫は、ゆっくり目を閉じた。
『……面白い男じゃ』
「それとな」
『なんじゃ?』
「甘味、食いたくなったらまた来い。
クレープでも食わせてやる」
『……その時があれば、な』
声が消える。
猫は俺の膝の上で、
小さな粒子となり、消えた。
俺は粒子を捕まえる。
が――
手のひらには何も残っていなかった。
「女神か……」
一拍。
「めんどくさいのに、目ぇ付けられたな」
だが、
何一つ“了承”はしていない。
――これでいい。




