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【第5部】第13話 構造

俺は人気のないベンチに腰を下ろした。

猫を膝の上に置く。


猫は――いや、

女神は俺の目を見ながら聞く。


『どうじゃ、この世界は?』


声は穏やかだった。


「悪くない」


一拍。


「飯はイマイチだが、

 飯を考える“手間”を楽しんでる」


女神が笑う。


『お主は、本当に変わっておるの』


「そうか?」


俺は猫の耳をいじりながら言う。


「……ついでに聞いていいか」


『なんじゃ?』


「この猫、魔素で作ったと言ったな。

 魔素は魔法の元……としか知らん。

 そもそも魔素って何だ?」



沈黙。



「氷魔法で作った氷、

 汚れた魔素だから食えん、と言われた。

 結構ヘコんだぞ」



間。



女神が、少しだけ考える気配。


『概ね、お主の言うように

 “魔法の源”という認識で合っておる』


「汚れは?」


『魔素は生命体や環境によって変わるのじゃ』


「……」


『魔素の汚れは、概ね“負の感情”じゃ』


「感情に影響されるってことか?」


『そうじゃ。

 乱れた心、負の感情は、魔素を濁らせる』


俺は頷く。



――感情依存。


――質の変動。


――エネルギーじゃなくて、状態物質か。



「なるほどな」


『じゃからな。戦争が始まるであろう?

 今は負の感情で、

 魔素の汚れが強くなっておる』


「……なんか影響があるのか?」


『環境への影響が大きいぞ?

 間もなくしたら、空気内の魔素が多くなる。

 そうすれば……

 日の熱が逃げず、気温が上がるぞ』



――輻射加熱みたいなものか。



『のぉ?困るじゃろ?』


少し声が高くなった気がした。



――こいつ、


――戦争の話を狙ってるな……



俺は話題を変える。


「魔素ついでに魔法の質問だ。

 なんで俺やユウキは無詠唱なんだ?」



間。



『妾が、才を授けたからじゃ』


即答。


「なるほどな」


一拍。


「だが」


猫を見る。


「ユウキの極大魔法、詠唱してたぞ?」


女神の声が少しだけ低くなる。


『極大魔法を、バカスカ撃たせる気か?』


一拍。


『人間に被害が出たら、どうする』


俺の手が止まった。



――……人間、か。


――魔王ではなく、


――魔族全体が狙いか。



何も言わない。

猫の背中を、また撫でる。



沈黙。



風が吹く。

ラベンダーの香りが流れた。


そして、女神の声が変わる。

声のトーンは低くなる。


『……お主』


一拍。


『使命は、忘れておらぬな?』


俺は答えない。

猫の背中を撫で続ける。


『勇者として召喚したのじゃぞ。

 目的は一つじゃ』






間——






『魔王を討て』






静かな空気。


俺はゆっくり口を開いた。


「……理由は?」


『人間を守るためじゃ』


即答。


『魔族は危険な存在。

 人を襲い、奪い、魔素を乱す』


一拍。


『放置すれば、この世界は崩れる』


「……」


『お主の力なら可能じゃ。

 魔王の暗殺も、評議会の排除も』


風が止まる。


『世界を、救えるぞ』






長い沈黙。

 





そして俺は言った。


「なるほど」


一拍。


「話は理解した」


女神の気配が、わずかに緩む。


その瞬間――


俺は続ける。


「で、確認なんだが」


空を見る。


「魔族が動くと、魔素はどうなる?」


『活性化する』


「戦争になったら?」


『増幅する』


「感情で質が変わるんだよな」


『そうじゃ』


「負の感情は?」


『最も濃くなる』



沈黙。



俺はゆっくり続ける。


「つまり」


一拍。


「戦争が起きるほど、魔素は濃くなる」


女神は答えない。

猫の尻尾が止まった。


「もう一個」


猫は目を細める。


「その魔素――」


一拍。



 

「循環か回収されないと、まずいよな?」




猫の目を見る。


「輻射加熱で気温が上昇するなら、

 それが自然の摂理なら、

 何かしらの循環が働くはずだ」


『……』


「もし、自然発生を超える量なら、

 回収機構がないと、この世界は保持できない」


『……お主、何が言いたい』


「誰が回収してる?」


 




長い沈黙。






風だけが動いている。


俺は静かに猫を撫で続けた。


そして確信した。



――……なるほどな。


――理解した。


――だが、


――これ以上の詮索は危険か。



俺は話題を変える。


「なぁ、女神さん」


『……なんじゃ』


「パンケーキ、食うか?」

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