【第5部】第11話 女神の観測
「良いのぉ〜
戦争は良いのぉ♡」
戦の気配が広がっている。
国境――
都市――
村――
兵が動き、 噂が広がり、人が不安を口にする。
「良い流れじゃ♪」
恐怖は――魔素の質を上げる。
憎しみは――魔素を濃くする。
不安は――魔素を長く保つ。
まだ戦は始まっていない。
だが、
人は始まる前から、
十分に感情を消費してくれる。
――戦争は効率が良いのぉ。
空間に映し出した映像で
地上の流れを眺めていた。
その時、
フッと、思い出した。
――あの男……
映像を切り替える。
魔族領の城下町――
流れの中に、
魔素が濁らない場所がある。
恐怖が広がらない――
不安が溜まらない――
感情の波が、 大きくならない――
視点を絞る。
石造りの施設――
子供――
花――
食事――
笑い声――
戦前の空気ではない。
さらに観る。
――魔族の子らか……
本来なら、
負の感情が集まる場所だった。
だが、そこは違う。
静かだ――
濃くない――
安定している――
一人の男に焦点を合わせる。
異世界召喚個体――
勇者候補――
――名は……
イロハ、と名乗っておったな。
過去の映像を思い出す。
戦闘能力は、正直分からない。
普通の魔法の使い方をしていない。
ただし、極大魔法を消失させる力はある。
適応力も高い。
過去の勇者なら、
チート能力で適応力を高めていたが……
こやつは、金運SSと初級魔法のみ。
――問題は……
使命感もない。
信仰心もない。
名誉欲もない。
戦わない勇者――
――そんな勇者、おってたまるか!
私は映像を見続ける。
恐怖を、生活に変えて、
不安を、作業に変えて、
孤立を、居場所に変えている。
結果――
その周囲だけ、魔素の質が落ちている。
英雄ではない。
救世主でもない。
――魔素、収穫効率を下げる個体。
だが。
――果たして、このまま放置でよいのか?
戦争が始まれば、
こんな施設は関係なくなると踏んでいた。
しかし。
よりによって、魔王と親身になっておる……
放置か、
排除か、
それとも……
――利用できるか。
判断には、情報が足りない。
「……一度、話をする価値はあるかの」
直接降臨……
――魔素の消費量が大き過ぎるのじゃ。
――現時点では効率が悪いのぉ……
神託……
――魔素の使用は少なくて済むが、
――妾の言葉を届けるだけじゃ……
なら、
「従魔、じゃな」
中コスト接触。
双方向性の意思疎通が可能な手段。
妾は媒体を選ぶ。
小型。
警戒されにくい。
生活圏に自然に入れるもの。
魔素を切り分け、形を与える。
骨――
筋肉――
毛並み――
小さな生命体――
猫が、静かに目を開いた。
視覚、接続。
感覚、安定。
転移位置を指定する。
石造りの施設、
イロハの近くへ。
妾は従魔を転移させる。
まずは……
――“使える”か判断せねばのぉ……




