【第5部】第7話 会議
評議会室――
重い扉が閉まる。
石造りの円形の部屋。
中央の机を囲むように、
数名の評議員が座っていた。
机には地図が広げられている。
人間領。
魔族領。
そして――
赤い線で引かれた戦線。
「南部方面軍より報告」
報告官が書面を読み上げる。
「抵抗は散発的。
現地の魔素濃度は高く、回収効率は良好」
別の者が地図に印を付ける。
「では、ここまで押し上げられるな」
「可能だろう」
淡々とした声。
まるで、
畑の区画でも広げるような調子だった。
一人が言う。
「問題は、魔王陛下の方針だ」
一瞬、 空気が止まる。
「規模を抑えろ、だったな」
「局地戦に限定。
長期化は避ける、と」
誰かが地図を見たまま言った。
「……では、勝てぬな」
沈黙。
そして――
誰かが小さく笑った。
「……現場を知らぬ方の発想だ」
別の者が頷く。
「今の人間側は混乱している。
押せる時に押すべきだ」
「戦線を広げれば、
魔素回収量も、資源も増える」
「何より――」
地図の奥を指す。
「ここを押さえれば、次の戦争が楽になる」
合理。
それだけだった。
一人が椅子にもたれた。
「で、その魔王陛下は?
今、何をしておられる?」
誰も答えない。
少しの間。
そして一人が肩をすくめた。
「さぁな」
軽い声だった。
「所詮、お飾りだ」
机の上の地図を指でなぞる。
「この国を動かしているのは、我々だ」
誰も否定しなかった。
やがて議長が口を開く。
「では、方針を確認する」
指が戦線をなぞる。
「拡大可能な地域は、すべて押さえる――」
「各方面軍に通達。準備を急がせろ――」
一拍。
「完了次第――」
地図の中央に、黒い印が置かれる。
「正式に、宣戦布告する」
誰かが頷く。
書記が筆を走らせる。
命令が紙に変わり。
制度に変わり。
やがて――
戦争になる。
重い扉が開く。
一人。
また一人と。
評議員たちは部屋を後にした。
部屋に残ったのは、机の上の地図だけ。
赤い線は、まだ止まっている。
だが。
それがそこに留まる理由は――
もう、
どこにもなかった。




