【第5部】第6話 鏡
――小さい子が増えたなぁ。
私は公園を見渡した。
走っているのは、
小さな子ばかりだ。
転ぶ。
泣く。
笑う。
私は少し離れた場所から、
その様子を眺めていた。
一緒に遊ぶことはできる。
でも――
「なんか……違う気がするんだよね」
そう。
少し、違う。
小さな子が、私の服を引っ張った。
「お姉ちゃん! あそぼ!」
私は笑った。
「いいよ」
しばらく一緒に遊ぶ。
すべり台。
ブランコ。
やがてその子は、
また別の子のところへ走っていった。
私は立ったまま、公園を見る。
――私……
――ここで遊んでて、いいのかな。
風が吹いた。
ラベンダーの香りが流れる。
私は自分の髪に触れた。
指が、すっと流れる。
髪が、さらりと落ちる。
もう一度触る。
前より軽い。
前より柔らかい。
イロハが作った、
髪用の石鹸を使い始めてからだった。
――リンスインシャンプーって言ってたな……
少し前まで、
私の髪は油と埃で固まっていた。
今は――
私は水桶のところまで歩く。
水面を覗き込む。
揺れる自分の顔。
そして髪。
風に揺れる。
光を受けて、
少しだけ反射する。
――……これ。
もう一度、触る。
――ちょっと、いいかも。
その日の午後――
私はイロハを探した。
石造りの家の前で、何かを混ぜている。
「……イロハ」
「ん?」
「これ」
私は髪を少し持ち上げた。
「……どう?」
イロハは一瞬だけ見た。
そして普通に言った。
「あぁ。いいな」
それだけだった。
でも、
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
沈黙。
私は少し迷ってから言う。
「……あの、さ」
「ん?」
「これ」
言葉を探す。
「……他の人も、欲しいって思うかな」
イロハの手が止まった。
ゆっくりと、私を見る。
「思うだろうな」
一拍。
「特に金持ちの女はな」
私は目を瞬かせた。
「……売れる?」
「売れる」
「……私でも?」
イロハは即答した。
「お前でも」
沈黙。
風が吹き込む。
ラベンダーの香り。
私は少し俯いた。
そして言った。
「……やってみたい」
イロハは頷く。
「じゃあ、量は決めろ」
「え?」
「作りすぎるな」
一拍。
「髪より先に、
お前がボロボロになる」
私は小さく笑った。
「……うん」
イロハは続ける。
「色んな香りを試してみろ」
一拍。
「案外、面白いぞ?」
私はもう一度、
自分の髪を触った。
さらりと落ちる。
少しだけ、胸を張る。
その日、私は初めて――
公園の中ではなく、
公園の外を、少しだけ意識した。
遊ぶ場所ではなく。
自分が――
少し変われるかもしれない場所として。




