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【第5部】第5話 おじさん達

公園の中央では、

子供たちが走り回っていた。


ラベンダーの香りが、風に乗る。


ベンチのそばで、

私はイロハ殿と向かい合っていた。


侍従長は、

少し離れた位置に立っている。


穏やかな時間だった。


その時だった。




「――!!」




一人の男が駆け込んできた。

その男は周囲を警戒するように見回し、


そして――私を見た。


一瞬、

思考が止まった顔をした。


次の瞬間――


片膝をつき、深く頭を下げる。


「魔王様!!」


公園の空気が、

ほんの少しだけ揺れた。


イロハ殿が、隣で呟く。


「カイムが頭を下げるか。

 ……オッサン、本当に魔王なんだな」



――カイム、というのか。



その瞬間、

カイムの肩がびくりと跳ねた。


そして――


「イ、イロハーーーー!!!」


立ち上がり、詰め寄る。


「貴様!!

 誰に向かって、その口の利き方は!!

 魔王様だぞ!!」


私は軽く手を上げた。


「良いのだ」


カイムが止まる。


「イロハ殿には、許しておる」



沈黙。



カイムの顔が、

ゆっくりと引きつっていく。


その後ろで――

侍従長が肩を震わせていた。


完全に、笑いを堪えている。


その時だった。


「なにやってるのー?」


子供の声。


振り向くと、

先ほど紹介された、スズという少女が立っていた。


スズはこちらを見回す。


「……おじさん達ばっかりで」



沈黙。



イロハ殿が私を見る。


「だとよ、オッサン」


私は――笑った。



「ハッハッハ!」



声が、公園に響く。


「ここは、愉快な場所だな」


イロハ殿が肩をすくめる。


「ここはそういうとこだ」


公園を見る。

子供たちが走っている。


誰も軍のことなど知らない。

誰も戦争のことなど知らない。


「ここは、公園だ」


イロハ殿は言った。


「遠慮も、政治も、関係ない」


一拍。


「俺は、ここを広げるぞ」


私は横目で見る。


「民意を得るために、か?」


イロハ殿は首を振った。


「それはオッサンの仕事だろ」


一拍。


「俺はな――」


イロハ殿は、

スズの頭にぽんと手を乗せた。






「——こいつを守るためにやってる」






私は黙って聞いていた。


イロハ殿は続ける。


「考えてみろ」


公園を見る。


子供たち。


ラベンダー。


青い空。



「一個人を守った結果が――」


「戦争に影響して――」


「政治に影響したら――」



少しだけ笑った。






「——面白いだろ?」






私はしばらく考えた。


そして――


口元が緩んだ。


「……気に入った」


侍従長を見る。


「侍従長」


「は」


「イロハ殿と、

 常に連絡が取れるようにしろ」


一拍。


「制度や行政が関わることがあれば、

 全面的に手を貸せ」


「かしこまりました」


イロハ殿が言う。


「じゃあ、その時は――」


こちらを見る。


「美味いもん食わせてやる」


侍従長が微笑む。


「えぇ。楽しみにしております」


その時、

スズが首をかしげた。


「ねぇ?」


私たちを見回す。


「何の話してるの?」


そして、指をさす。


「で、カイムさんは、

 なんでずっと土下座してるの?」


全員の視線が、カイムへ向いた。


カイムは――


額を地面につけたまま、固まっていた。


公園では、

子供たちの笑い声が続いている。


戦争は、

まだ始まっていない。


だが、この場所は――


もう、

戦争の外側にあった。

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