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第10話 身体は、正直だ

外に出ると、空気が違った。


街の外は、音が少ない。

人の声が消え、代わりに風と草の擦れる音が残る。


――いいな、ここ。


ギルド指定の薬草は、

思ったよりも簡単に見つかった。


場所も、数も、妙に都合がいい。


――ああ、これが金運SSか。


否定はしない。

便利なものは、使う主義だ。


指定数を袋に詰め終え、周囲を見渡す。


その時だった。


草むらが揺れる。


現れたのは――

鹿に似た魔物。


角が少し歪で、目が鋭い。

相手は気づいていない気がする。


――物理でいけるな。


一瞬、そう思った。


だが、足を止める。


――いや、待て。


今日は、“倒す”日じゃない。

“確認する”日だ。


距離を取り、腰を落とす。

呼吸を整える。


「……よし」


ファイアーボール。


放った瞬間――


――ズン。


腕から肩、背中、腰。

身体全体に、反動が走る。


鹿は倒れた。


だが、それよりも――


――やっぱり、ここだな。


腰だけじゃない。

股関節の伸展、体幹の固定、肩甲帯の安定。


そして何より……


――手首がやばい。


手の平を相手に向けて、射出。

最初の反動は、必ず手首を通る。


そして、手首だけじゃない。


一箇所でも甘ければ、力は逃げる。

逃げた力は、全部、自分に返ってくる。


――手首。

――大殿筋。

――広背筋。

――腹圧。


脳内でチェックリストが増えていく。


「……魔法、雑だな」


いや、正確には……


――俺の使い方が、雑だ。


威力はある。

だが、身体設計が追いついていない。


――これ、使い続けたら壊れる。


鹿の死体を見下ろし、ため息をつく。


「ごめんな」


引きずって歩き出す。

重さはあるが、運べないほどじゃない。


そのままギルドに向かう――

つもりだった。


……が。


気づけば、足は別の方向を向いていた。


老夫婦の店。


扉を開けると、昨日と同じ鈴の音。


「おや……」


主人が鹿を見て、少し驚いた顔をする。


「食材に、なるか?」


そう聞くと、老夫婦は顔を見合わせて、笑った。


「ええ、十分すぎるほど」


「今夜は、うちで食べていきなさい。用意しておくよ。」


――即答か。


「じゃあ、お願いする」


鹿を渡し、店を出る。


腹の問題は、解決した。


次は――数字だ。


ギルドに戻り、薬草を納品する。

受付の女性が淡々と処理を進める。


「問題ありません。達成です」


カードに、記録が一つ増える。


――数字が、動いたな。


それだけだ。

称賛も、興味もない。


だが、それでいい。


帰り道、また武具屋の前で足が止まる。


中を覗く。

剣、防具、盾。


やはり、欲しいものはない。

手首に視線が落ちる。


――ここは、守りたいな。


固定しすぎない、補助。

動きを殺さない、最低限。


「バンテージ、か」


買わない……

というか、売っていない。


俺は老夫婦の店へ向かった。


日が落ち始め、街に灯りが増える。


身体は正直だ。

無理をすれば、必ず返ってくる。


だからこそ――


壊れない設計を、先に作る。


異世界生活は、

少しずつ、現実になってきていた。



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