【第4部 幕間】第4話 痕跡
「なんだこれ!?
めちゃくちゃ美味いぞ!!」
剣士の手が止まらない。
「こんな味、初めてです」
ヒーラーは味わうように口へ運ぶ。
「銀貨二枚の価値はあるな」
斥候は、コストパフォーマンスを気にしている。
剣士が食べ終わると、近くで皿を運んでいる子供へ尋ねた。
「なぁ坊主。この料理、誰が考えたんだ?」
「イロハ先生だよ!」
一瞬、空気が止まる。
「……間違いないですわね」
「あぁ」
「「「あいつだ!!」」」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は思い出す――
山賊討伐の時に出会った、一人の変わった魔法使い。
名前は知らない。
俺たちも名乗っていない。
でも、あいつは俺の剣の使い方を指摘した。
両手剣へ変えたら、肘の痛みは驚くほど変わった。
ヒーラーのルネもそうだ。
あいつの魔法の考え方に、妙に興味を持っていた。
――まあ、気に入っているのは確かだが。
斥候のシャスと話して、仲間に引き入れようとした。
だが、あっさり断られた。
――まあ、そうなるとは思ったがな。
それからというもの、
俺たちは何となく、あいつの影を追った。
人に尋ねながら、歩みを進めた。
テロワール城下町で流行っている焼き小麦。
その初出店の人物が、あいつと一致した。
情報を集めていたら、その国の兵が言った。
「リーフ軍師を探しているのか?」
そこで初めて、名前が分かった。
――ん?
――軍師??
軍の人間だったのか?
いや、あの動きは訓練された兵のものじゃない。
そして行き着いた先が、
ロカ・フォルテの町――
この町でも焼き小麦が有名だった。
しかも、ある孤児院で、だ。
その孤児院は異常だった。
軍が警備をし、
貴族が客で、
接客するのは孤児――
「本当に、いるのか?」
斥候のシャスが肩をすくめる。
「知らねぇよ。
でもリーフとイロハ、人物像が一致してるんだよ」
ヒーラーのルネが小さく言った。
「でも……」
少し間を置く。
「まず、食べてみない?」
「……そうだな」
「正直、この匂いは反則だ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして、今に至る――
――“先生”か……
「なんだあいつ。聖教者にでもなったのか?」
「んー……分からん」
ルネが、子供へ尋ねた。
「ねぇ、僕。
そのイロハ先生ってどこにいるの?」
「え、あの……その……秘密!!」
「秘密って……参ったな」
脳裏に浮かぶ。
戦い方——
魔法の使い方——
言葉——
そして――
俺は呟いた。
「……あいつ、冒険者じゃない」
シャスが頷く。
「でも軍でもねぇ」
ルネが続ける。
「でも、ここを作る理由はあった」
沈黙。
そして、シャスが言った。
「手がかりは、一つだけだ」
剣士が振り向く。
「なんだ?」
「ここの兵……第八部隊」
数日後——
軍の詰所。
受付で、俺たちは問い合わせていた。
だが、なかなか情報は教えてくれない。
――機密情報だから仕方ないか……
その時だった。
「なんだ、お前達?」
確か、マルクス副官と言ったか。
「俺達は冒険者パーティーの者だ。
以前、こちらの兵に世話になったので、お礼の挨拶に来た」
「……そうか。
で、そいつの名は?」
「リーフ、もしくはイロハと聞いています」
「……またあいつか」
「!?」
「裏に回れ。
事情ぐらい聞いてやる」
俺たちは、ついに話せる相手と巡り合った。
パーティーに引き入れたい――
そんな希望から始まったはずだった。
でも、気づけば違っていた。
俺たちは、“イロハ”という人間に惹かれていたのかもしれない。
「ところで、お前の名は?」
「アカサだ」
どこかで、また一つ。
イロハの痕跡を追う者が動き始めていた。
――まだ、誰も知らない。
それが、戦局に関わることを。




