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【第4部 幕間】第2話 管理不能

笑い声が、評議会室に響いていた――


長い石の卓。

重厚な椅子。


魔族領の中枢を担う者たちが、

満足げな表情を浮かべている。


「見事だな」


「これで、大義名分は整った」


一人が新聞を机に広げた。


そこには、大きな見出し。




人間側勇者、魔族領に侵入——


魔族領内での戦闘行為——


民間地域で極大魔法の詠唱形跡あり――


被害多数——




「事実関係の確認は?」


「問題ありません。

 “伝えるべき事実”のみを掲載しています」


別の者が頷く。


「被害多数……か」


「“心”の被害じゃよ」


「物は言い方次第だ」


「よろしい。各都市にも回せ。感情を動かせ」


「戦争は、正義ではなく空気で始まる」


再び、笑いが漏れた。




一人が、ふと表情を引き締めた。


「しかし……」


室内の空気が少し変わる。


「極大魔法の件だ」



沈黙。



「消えた、そうだな」


「消えた、ではない」


報告書を持つ者が答える。


「内側から崩壊したとのことです」


「術者は?」


「例の人間、イロハ」


短い沈黙。


誰も笑わなかった。


「……確認だが、極大級だな?」


「はい」


「それを?」


「単独で、無詠唱にて対処」



空気が、重くなる――



やがて、議長が言った。


「……刺激するな」


全員が顔を上げる。


「接触は最低限。干渉するな。

 だが……

 今回の件で戦争の口実を作ったのは、事実だ。

 利用はする」


一拍。


「だが、近づくな」


誰かが、小さく呟いた。


「……便利だが危険、ですな」


誰も否定しなかった。




「勇者ユウキの件はどうする」


議題が移る。


「人間だ、極刑でいいだろ」


「だが、魔族領で戦闘行為をするも、

 国民に直接的な被害はない」


「法的前例は?」


「ありません」



沈黙。



議長が短く言った。


「軍に委ねろ。評議会判断外とする」


書記が記録を取る。


勇者の処遇は、そこで終わった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




場所は変わり――


軍上層部、会議室。


「……どうする」


誰かが頭を押さえた。


机の上には、報告書が山のように積まれている。


「勇者は人間——」


「魔族領での戦闘行為——」


「魔族への被害は無し――」


「だが、戦闘状況は――」


別の者が言う。


「人間対人間だ」



沈黙。



「法で裁くなら?」


「想定していない」


「処刑すれば?」


「人間側への外交問題になる」


「釈放は?」


「前例が無い」



さらに沈黙。



一人が、ため息をついた。


「……イロハと言ったな。

 奴の意見を聞くか?」


「カイムでもいい」



しばらく考える。



「……そうだな」


結論が出る。


「拘束は継続。

 当人の意見を聴取する」


書記が書き込む。


そして、誰かが思い出したように言った。


「そういえば」


全員の視線が向く。


「あの隔離対象の施設は、どうなった?」


資料がめくられる。


報告担当が答える。


「家屋完成——」


「生活環境、安定——」


「対象者、健康状態良好——」


頷きがいくつか。


「それで?」


一枚、追加資料が出された。


「子供の数が増えています」


「……増えた?」


さらに報告。


「近隣の孤児、

 および一般家庭の子供も出入りしています」



沈黙。



「遊具を設置——」


「食事提供あり――」


「農地拡張——」


「地域交流、活発——」




長い沈黙。




誰かが、ゆっくり言った。


「……それは」


資料を見ながら、


「隔離施設なのか?」


誰も答えなかった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




その頃——


川辺では、子供たちの笑い声が響いていた。


ブランコが揺れ、

鉄棒にぶら下がり、

焼き小麦の匂いが風に乗る。


評議会は、戦争を準備している。

軍は、前例が無いことを悩んでいる。


そして、ここでは――


生活が、続いていた。

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