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【第4部】第24話 現実の重さ

光が、消えた――


巨大な魔法は跡形もなく崩れ、

空にはただ、揺らぐ熱だけが残っていた。


静寂。


砂煙が、ゆっくりと落ちる。


地面の中央に、俺は立っていた。


左手の感覚は、ほとんどない。

黒く、炭のように変色している。


右腕は、ぶら下がっていた。


力が入らない。

角度がおかしい。



――脱臼と骨折か。



“核”に触れたんだ。

ただで済むはずがない。



――まあ、想定内だ。



「イロハ!!」


上空から、カイムが降りてくる。


着地と同時に、両手をかざした。

回復魔法の光が、俺を包む。


焼けた皮膚が再生していく。

焦げた匂いが消える。


右腕の関節が、音を立てて戻る。


骨が整列し、

筋肉が繋がり、

神経が目を覚ます。


「痛みの感覚すら、無かった」


「……今のが治す限度だ」


カイムの声は、低かった。


少し離れた場所で、

スズが、その光景を見ていた。



動かない。


声も出ない。



ただ――



焼けた腕。


折れた腕。



それが、光で戻っていく。


その様子だけを、見ていた。






「なんでだ……」


ユウキの声が震えていた。


「なんで消えた……」


呼吸が荒い。

視線が定まらない。


「極大魔法だぞ……!」


両手を振り上げる。


魔法陣が、複数展開される。


詠唱——


無詠唱——


重なる――


単発——


噛む――


乱れる――


発動——


不発——




火球が飛ぶ――


風刃が逸れる――


雷が地面を外す――




精度は、ない。

焦っている。


俺は、歩いた。


避けない。

避ける必要もない。


まっすぐ近づく。


ユウキの目が見開かれる。


「来るな!!」


さらに詠唱——

極大級の魔法陣。


魔力が暴れる。


俺との距離は――数歩。


その瞬間、

足を払った。


ユウキの体が崩れる。


地面に転がった。




空——


土——


空——


呼吸——




視界が安定していない。

ユウキの目が泳ぐ。


起き上がろうとして、手が滑る。

もう一度立とうとして、足がもつれる。


俺は、何もしなかった。


ただ、見ていた。



――こいつ……



喧嘩、したことないな。

殴られたこともない。

転ばされたこともない。



――もしかしたら、



怒られたことも、ないのかもな。


「ユウキ」


声をかける。


ユウキの肩が跳ねた。


「戦いはな――」


ゆっくり言う。


「正しさで勝つものじゃない」


息を整えながら、続ける。


「見たもの――

 触れたもの――

 自分で確かめたもの――

 それだけが、お前の判断材料になる」


ユウキの唇が震えている。


「女神が言った――」


「誰かが言った――」


「そう聞いた――」


俺は首を振る。


「それはな――信仰だ」


ユウキに、一歩近づく。


「もう一度言う。

 勇者なら、象徴を持て」


ユウキの目が揺れる。


「技でもいい――」


「思想でもいい――」


「信念でもいい――」


「何でもいい――」


少し間を置く。


「それがないなら――」


静かに、言う。



「お前は勇者じゃない」



ユウキの呼吸が止まる。


「ただの、都合のいい道具だ」


言葉は返ってこない。


目だけが、揺れていた。




風が吹いた。

土の匂いが流れる。


遠くで、ざわめきが続いている。


その中で、違和感に気づいた。


視線を向ける。



――スズ……?



立っている。


だが――


顔色が白い。

呼吸が浅い。

肩が、小刻みに震えている。

目の焦点が、合っていない。


さっきまでの光景を、

そのまま抱えた顔だった。


焼けた腕——


折れた腕——


回復の光——


戦い――


悲鳴——



――まずい。



俺は、ユウキから視線を外した。


今、見るべきなのは――


勇者じゃない。

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