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エピローグ-2 SIDE A‐①:行った場合

 城東署に到着した拓雄は阿川を呼び出すと、別の警察官の誘導により取調室のような部屋で待たされた。それも仕方がない。拓雄は全てを自白する覚悟をし、奥の席に座った。

 別室では先に和可菜が彼らからの追及を受け、四苦八苦しているに違いない。あくまで拓雄との秘密を守ろうとしているのか。それとも真実を既に告げてしまっただろうか。

 だがもうどちらでも良かった。もし前者なら早く苦悩から彼女を解放してあげたい。後者なら、阿川達相手に全てを白状すればそれで済む。その結果、どういう罪に問われるかは分からない。それでもこれ以上嘘をつき続けるのは限界だった。

 しばらくして阿川と久利が二人で入って来た。久利が出口近くの椅子に座り、机を挟んで阿川が正面に腰かけた。

「ご足労頂き、有難う御座います。早速ですが、綿貫さんが目撃されたあの日の件について、もう一度お伺いします。一体何があったのですか」

 拓雄がスッキリした表情を浮かべていたからだろう。彼はいきなり質問をぶつけて来た。

「はい。申し訳ありません。歩さんが誰かに突き落とされたのを目撃した、というのは間違いです。呼び出された私は、彼女とあの場所で言い合いになりました。でも信じて下さい。私は突き落としてなんかいません。あれはあくまで事故です。彼女は自分で足を滑らせ、階段から落ちたのです。だから慌てて救急車を呼びました。これは嘘ではありません」

 最初から経緯を告げ、その結果犯人にされてしまうと恐れ証拠となるスマホを隠すなどした件を白状した。

 もちろんその後和可菜に真実を伝え、判田を犯人に仕立て上げようと画策し、染岡の協力を得て彼女がスマホを彼のリュックに入れた件を認めたのである。

 阿川はしばらく何も言わず聞いていたが、流れるように全ての経緯を言い終わったところで口を開いた。

「なるほど。後田さんの証言と、大体は一致していますね」

 その一言で彼女が彼らの圧力に負け、全てをさらけ出したのだと理解した。それでも怒りの感情は全くなく、それどころか安堵した。

 刑事の前で嘘を隠し通すというのは、相当な精神力が無ければ無理だ。よって話してしまった方が気は楽に決まっている。

 もちろん和可菜の心の中には、秘密を暴露してしまったとの後ろめたい気持ちが多少残るだろう。だがそもそも拓雄がおかしな真似をしたからであり、彼女には何の罪もない。

 肩の荷が下りたと思い、力が抜けたところで彼は厳しい質問を投げて来た。

「これは二人でそう口裏を合わせたのですか」

「疑われても仕方がありませんが、違います。最初に私が嘘偽りなく事情を説明していれば、こんなことにはならなかったのです。全て私の判断が間違っていました。申し訳ありません」

「そうですか。ところであなたが突き落としていない、という証明はできますか」

「衣服にそういう跡がないという点以外では、歩さんの証言しかないと思います」

「被害者の衣服の胸のあたりに、あなたが消毒用で手に付けていたアルコール成分が付着していたのは、言い争いになり掴んだ時のものだとおっしゃいましたね。あとでそれを誤魔化す為、生きているかどうかを確認した際に再度触れたのだと」

「その通りです。だから歩さんが女性だと後から知ったのも本当です。会った時や揉めていた時に気付いていれば、胸倉なんか掴みませんよ。和可菜の元カレで男性だと思い込んでいたし、歩さんもそう匂わすような発言をしていましたから」

 阿川は眉間に皺をよせ、少し間を置いて言った。

「事件があった翌日、我々が綿貫さんに被害者の写真を見せて女性だとお伝えした際、確かに驚いていましたよね。女性だとは気付かなかったと。あの時の表情から演技には見えなかった。第一、目撃者として被害者の性別を偽る必要などありませんからね」

 証言の一部でも信じてくれたことに拓雄はホッとし、そして頷いた。

「そうです。歩さんと和可菜の関係を知ったのは、またその後です」

「あくまで、あれは事故だったと主張されますか」

「はい。それは間違いありません。だから慌ててすぐ救急車を呼んだのです」

 また何か思案しているような表情をし、沈黙した彼に拓雄は思わず尋ねた。

「私が何らかの罪に問われるのは構いません。ただ和可菜は関係ありませんから」

「そうですね。事故だとすれば犯人隠避には問えませんし、判田さんに対する行為も綿貫さんに協力したことは事実ですが、罪に問えるかどうかと言われれば微妙です。彼が誤認逮捕されていれば事情は変わったかもしれませんが、あのスマホが発見されたからこそ綿貫さんの関与が明らかになった訳ですから」

「やはりそうでしたか。素人の浅知恵で馬鹿な真似をしたからですね。指紋などはつかないよう、彼女は気を付けていたはずなんですけど」

「指紋はありませんでしたが、やはり悪いことはできないものですよ」

 そこでようやく理解した。匿名の電話の通り都合よく証拠が見つかった点や、判田を事情聴取した警察は違和感を持ったに違いない。そこで第三者がスマホを入れたと考え、恐らく位置情報を確認したのだろう。

 もちろん判田のバッグに入れるまで、スマホは圏外カバーの中に入れていた。

 しかし出した時点で電源を切っていても発せられる微弱電波により、待ち合わせをした喫茶店の場所が検知されたに違いない。

 電源を切っても充電は減る。よって事件発生から二週間以上経過し、微弱電波が出ない可能性に賭けていたが、どうやら目論見が甘かったようだ。

 警察は一時消えた位置情報から再び現れた場所から考察し、事前に判田と接触したという拓雄の説明により、まずは一緒にいたという和可菜を尋問で落とそうとしたのだろう。その策略が当たり、彼女を自白させたと思われる。それから拓雄を呼び出そうと思っていた所、自ら出頭してきた為にこうして取り調べを行っているのだ。

 ただそこまでは出来たけれど、事故と主張されれば警察としては今のところ証明できないのだろう。だから逮捕も出来ず困惑していると想像できた。

 そんな時だ。ドアがノックされ、私服刑事が飛び込んできて阿川に何やら耳打ちを始めた。すると彼は目を見開き、思わず彼に聞き返していた。その言葉を耳にし、拓雄は悟った。歩の意識が戻ったのだと。

 まずは彼女が無事だったことに、胸を撫で下ろした。もしこのまま死んでしまったら事実が闇に葬られ、拓雄はあらぬ疑いをかけられたままになったかもしれない。逮捕されずに済んでも、疑惑が晴れなければ谷内田社長との関係は再び悪化するに違いないからだ。

 そうなるよりは彼女が目を覚まし、事実を口にしてくれたほうが良いに決まっている。嘘の証言により悪戯に警察を翻弄した件などは責められるだろうが、逮捕される確率は低い。

 そうなれば、即座に通報したのは事実でそのおかげで彼女が助かり、またDMで脅迫し呼び出していたのが彼女だと明らかになる為、リュミエールとの関係も悪化せずに済むだろう。 

 もちろん当初から恐れていたように、突き落とされたと証言される可能性は残っていた。そうなれば過った選択にけりを付ける為、人生を賭けて闘うだけだ。

 今更逃げられないのだから、そうするしかない。結果はもう少しすればでるだろう。拓雄は祈るしかなかった。

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