↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

朝帰り

 早朝の青空道場では、ちょっとした騒ぎが起きていた。久々に朝の稽古に顔を出したセレーネは、困惑している門下生の面々に事情を聞く。


「フィンはどうしましたか?」


「ああ、セレーネちゃん。ちょいと聞いとくれよ。いつも、いの一番でやって来るフィンちゃんがいないのよ。こんなこと今まで一度もなかったのにねえ」


「どうしたんだろう、心配だね。師範が黙って休むことなんてないだろうから」


「長屋に住んでる人らは、何か知らないかい?」


「すまんが、知らないのう。昨日は孫が夜泣きして大変じゃったし」


「子供たちは心当りないかな?」


 口々にフィンへの心配の声が上がり、GSSのメンバーに視線が向けられる。

 アンナを筆頭にしたGSSも、フィンの不在に心当りはないようだ。しかし彼らは動揺するでもなく、悠然と構えながら他の門下生たちに告げる。


「なあな、じっちゃばっちゃ。師範がいなくても、稽古はしようぜ」


「そうだよ。師範ならだいじょうぶだと思うし、あたしたちがサルターレしなくなったら、逆に悲しんじゃうと思う」


「おうおう、その通りだぜ。兄貴がいなくても、オレたちゃサルターレ流の門下生だろ」


 最初の弟子としての矜持があるように、GSSは他の面々を落ち着ける。

 子供たちがしっかりしていたので、大人もそれに倣うように安堵していった。


「そうねえ。フィンちゃんが私らのこと、意味もなく放っておくわけないもの」


「これも稽古の一環かしら。ねえ、鳥の動きってどうやるんだった?」


「ワシぁ、龍の動きをやってみたいぞい。ふぁっふぁっふぁ」


「お爺ちゃんはまず、犬の動きの反復練習からでしょ。もう」


 GSSのおかげで、ひとまずの混乱は避けられたようだ。

 サルターレ流門下生たちは、それぞれが教え合って朝稽古に励んでいく。

 セレーネはその様子に頼もしさを覚えるが、やはりフィンの不在は気がかりだ。家まで捜索に向かおうと考えていたとき。


「姉貴、ちょっと良いか」


「コーディ?」


 アンナがちょいちょいと、セレーネを手招きした。

 青空道場の片隅に移動してから、アンナは不安げな表情でセレーネに言う。


「もしかしたら兄貴、ほんとに朝帰りかもしれねえ」


「どういう意味だ?」


「それは、その……怒らないで、聞いてくれるか?」


「内容にもよるが、知っていることがあるなら聞かせてくれ」


 セレーネは真剣に耳を傾ける。

 アンナは恐る恐る、こちらの反応を窺いながら口を開いた。


「昨日、兄貴、ニューって美人の姉ちゃんと話してたんだ」


「ニュー……たしか、フィンに罅隙紋の訓練をつけたという刻印姫」


「オレはてっきり、姉貴がいるからさ。兄貴が浮気なんてするわけねえと思ってたんだけどよ。でも割と良い雰囲気っぽかったし、あのあといろいろあったとしたら……」


「……いろいろ」


「あ、兄貴を怒らないでやってくれよ! きっと兄貴にとって、姉貴が一番なのは間違いないと思うんだ! ただ、兄貴だって男だし……男って火遊びが好きなものだって、じっちゃんもよく言ってたから……」


 アンナは真顔で、フィンの情事を気にかけていた。

 幼い子供に何を教えているのか、セレーネは好々爺に割と侮蔑的なものを感じる。

 しかしアンナも女の子。自衛の手段を身に着けさせるためには、そういった知識も必要なのかもしれない。


 だからと言って、セレーネとフィンの間に妙な誤解を抱くのは問題だが――


「理解した。教えてくれて感謝する、コーディ。けれど他の理由で、姿を晦ませている可能性もある。フィンのことは私が探しておこう」


「そうしてくれると助かる。でも姉貴にだけは任せちゃおけねえし、スラムのことはオレたちGSSの方が熟知してる。こっちでも、兄貴のこと探してみるわ」 


「そうか。だったら、無理だけはしないでくれ。自分のことで誰かが傷つけば、きっとフィンも悲しむだろう」


「その辺は任せとけって。オレらにとっちゃ、スラムなんて箱庭だぜ」


 アンナはどんと胸を叩いていた。

 ひとまず他の門下生の不信を買わないように、セレーネもともに朝稽古だけは済ませておく。ちょうど学校もないので、今日はフィンの捜索に時間を費やした。

 なれど日が暮れても、フィンの姿が見つかることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。