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窓際の戦士たち

 プラネティス採石場は、北の高山地帯に位置していた。


 列車に揺られること一時間以上。移動の利便性を最適化した、白煙を吐き続ける鉄の塊でさえ、相応の距離を要したテラ王国の領土内。

 遥かな尾根の広がるプラネティス山脈は、隣国ヴィーナス共和国との国境だ。

 共和国とは友好関係にあるが、テラ王国から軌獣(オービスト)が越境すれば外交に関わる。


 今回はガイア―ド士官学校に依頼の一端として回されてきたが、場合によってはログフレアが出動する事案だ。

 それゆえに、ここで評価を残せれば退学免除も現実的なものとなる。


「――お前ら、言っとくが無茶だけはすんなよ。仮にも生徒に何かあれば、私の出世に関わる一大事だからな」


 駅から降りてすぐに、アルフレドは生真面目な顔で、不真面目な忠告をする。

 これを受けるガイアード士官学校の生徒――


「マクスウェル先生のジョークは、いつもつまらないですわ。お人好しが過ぎてログフレアでご自身が、窓際の英雄と呼ばれているのはご存じでして?」


 丁寧な口調で的確に棘を突き刺す少女。

 彼女は刻印姫(スティグマール)、オフェリア=フォン=ヒュアンシス。

 金色に色めく長髪を撫で上げながら、勝気な目元でアルフレドに半眼を作る。


「こらこら、ヒュアンシスくん。先生を困らせてはいけないよ。なぜならそう、彼の英雄は八面六臂の活躍で、あえて背水の陣を引いているのさ。周囲の凍てつく瞳を物ともせずに、燃え滾る烈火の如き魂で、僕たちを導く先導者の使命を担っているんだ!」


 面倒な言い回しをする少年穿士(ブレイバー)は、ウィンダム=パークリー。

 背に一本の黒い槍を担ぎ、右手を顔の前に掲げながら決めポーズを取っている。

 個性的なメンバーを眺めながら、アルフレドはどっと肩を落とした。


「ったく、締まらねえな、この問題児ども。せっかく場を和ませてやったのに。ほら、サーニタス君を見習いたまえ。これほど大人しく模範的な人間は、私の部下に欲しいぐらいだ」


「マクスウェル。フィンは単に、列車酔いで喋れないだけです」


「……い、言わなくて、良いって」


 せっかく我慢して取り繕っているフィンだったが、その顔面は蒼白だった。

 列車に乗り慣れていないフィンは、タイタンからガイアードに来るときも酔っていた。

 車内では窓の外に意識を集中させ、彼らとの交流はまだできていない。


「あら、サーニタスさん。それならそうと言ってくださらないと。てっきり、無口で気難しい方なのかと思っていましたわ」


「そうだったのか、スラムの伝道師サーニタスよ。僕も話しかけたら、ヤバイ人間かと思って何も切り出せなかったぞ。気づいてやれずにすまなかったな、ハッハッハ」


「……まあ、炊き出しのときも特に会話とかなかったからな」


 サルターレ流の稽古は、主に早朝と夕方の二回に分けて行われる。

 対して、炊き出しが行われるのは昼の一回のみ。

 スラムでは普段ゴミ拾いなどの清掃活動をしていることもあり、これまでオフェリアやウィンダムと直接話す機会はなかった。


「そう言えば、炊き出し会場に使っている広場を整備してくださったそうですね。他の職員からも好評でしたわ。遅くなりましたが、改めてお礼を言わせてください」


「別に良いって。俺も青空道場に使うついでだったし。それよりセレーネから聞いたが、オフェリアがあの炊き出しを企画してくれたそうだな。スラムのみんなも、あれが行われるようになってから、良い食事ができるようになったって喜んでたぞ」


「ふふ、スラムでの奉仕活動と言えば食事が基本ですものね。ログフレアの局長であるお父様にお願いして、何とか漕ぎつけましたわ」


「へえ、貴女の父親が局長……」


「元々はセレーネさんのお父様の代理でしたが、後任が見つからずにそのまま就任したのですわ。お父様はずっと、マクスウェル先生を推挙していたのですけれどね」


「やめてくれや。私はずっと椅子に座っていられるような柄じゃないんだ」


 照れ笑いしながら、アルフレドは持参したクレイモアに寄りかかっていた。


「けど、局長の娘がどうして退学の危機に?」


 フィンが何気ない疑問を呈すると、ウィンダムが横から口を挟む。


「彼女はあまりにも完璧主義なのさ。計画に少しでも綻びが見つかると、一切着手しようとしないから、いつも課題が遅れてしまう」


「お口が緩いですわ、パークリーさん。万全を期しているのだと言い換えなさいな」


「もちろん、その小動物のような慎重さは戦場において欠かしてはならないものさ。過剰に臆病な者でなければ、暗雲立ち込める戦火の中心を生き延びることはできない」


「遠回しに馬鹿にされた気分ですわね。そういう貴方こそ、面倒の塊ではありませんか」


「何を言うか。僕はこの胸を焦がす衝動に、心の声のまま従っているだけだよ」


「分かり辛いのですわよ。もう少し、噛み砕いて喋りなさいな」


「どっちもどっちだ、馬鹿たれども。お前らに足りないのは協調性だよ」


 オフェリアとウィンダムは、呆れ顔のアルフレドに宥められていた。

 やはり退学宣言されるだけあり、この二人も相当個性的らしい。この調子で軌獣討伐のチームワークが成り立つのか、フィンは少しだけ不安になってきた。


「さて、そんじゃ責任者に会いに行くぞ。現場の様子を聞かなけりゃ、作戦の立てようもないからな」


 アルフレドは引率して、プラネティス駅の傍に建つ作業員宿舎に歩を向けた。

 四人もそこに続くが、その途中でフィンはあることに気づく。


「なあ、セレーネ。俺たち、軌獣討伐に来たんだよな」


「そうだが、どうかしたか?」


「気のせいなら良いんだが、作業員たちの目つきがやけに気になってさ」


「そのことか。君は即席の穿士だから知らないだろうが――」


 周囲から注がれる、どこか圧力を含んだ視線の前にセレーネは告げる。


「刻印姫と穿士――もとい、ログフレアは民間人にとって疎外の対象だ」


「え……?」


 耳を疑うような事実は、すぐにフィンが理解するところとなった。



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