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「聖者の他に、魔力を出したり入れたりする人はいないのよ」


もちろん人の体に対してもね。とリーリエは言いながら、部屋の魔法陣に歩いていった。

放射状に置かれた無数のカードを器用に避けて、彼女は中央までたどり着いた。


「来て」


小さく手招きする彼女が可愛くて、誘われるままノクスは魔法陣に近寄った。


すると、今まで立っていたカードが、ノクスが近づいただけでパタパタと倒れた。

驚いて後ずさる。

すると、カードはまた起き上がった。


「黒い魔力が流れると倒れる仕組みよ」


「最初に言って」


不気味なものを見るようにノクスはカードを見た。


「見ててね」

今度はリーリエはノクスに向かってゆっくり歩いてきた。

カードは倒れない。

しかし、ノクスに触れそうなほど近づくと。


「あ」


リーリエの足元からノクスに向かってカードがドミノのように倒れて行った。


「ほら、吸われた」


得意げに言うリーリエ。だがノクスの顔色は良くない。

なんとなくの予想はついていたじゃないか。

なのに目の前で見せられると。


「気味が悪い」


直視出来なくて、彼はしゃがみ込んだ。

あんなふうに人の魔力を吸っていたのか。

黒い魔力を吸われたであろう彼らの熱を思い出す。

横目で盗み見ると、カードはどれもノクスの方に少し傾いていた。


「大丈夫?」


リーリエがノクスの背に触れると、彼はビクリと震えた。

ハッとして顔をあげると、リーリエは驚いたように青い瞳を見開いて彼を見ていた。

怯えているのはノクスの方だ。


「リーリエも……俺に触れたくなる?」


口をついて出た。リーリエはノクスの隣にしゃがんでちょっと考える仕草をした。それからノクスの手にそっと触れた。


「そうね。気持ちがいいからね」


そしてノクスの目を見て微笑むと、彼をふわりと抱きしめた。

ノクスの体が強ばる。

今までリーリエに抱きついていた事を思い出しノクスはゾッとした。

リーリエを、壊してしまう。


「は、離れ……」


リーリエの肩を掴むノクスの力に、リーリエは抵抗しなかった。


「でもきっと、それだけじゃないの」


「え」


「あたたかいから」


ノクスの体から離れたリーリエは彼を見る。彼女の頬が染まり、ノクスの手に残された指先が震えている。

自分に寄る、虚ろな瞳とは違う。潤んだ瞳が見上げるようにノクスを捉える。


「だから、それを確かめないと、答えが出なくて」


意を決して言葉にするリーリエ。

要領を得ない言葉に、ノクスの胸が高鳴る。


「リーリエ。お願い、ちゃんと言葉を」

選んで。聞かせて。

祈るような気持ちでノクスは言った。

そしてリーリエの表情に、ノクスは息を飲む。


「この気持ちが。恋かどうか確かめないと、あなたと先には進めない」


困ったように眉を下げるリーリエに、ノクスは抱きつきたくて、でも出来なくて、拳を握った。


「振られたとばっかり、思ってた」


昨日のノクスの告白。「二人で一緒に住みましょう」にかき消された告白。


「だから、制御できるまで他の人の魔力を吸わないように森に家を買って二人で住もうって、言ったでしょ」

魔法塔の魔法陣も消えちゃうからと、リーリエは愚痴を尖らせた。


「言ってないよ。聞いても、危ない。消えちゃう。だから二人で住むのよって」


ノクスはリーリエを真似て高い声を出した。


「リーリエって、説明下手だって自覚した方がいいよ」


ノクスが半分本気の顔をすると、リーリエはむくれた。


「仕方ないでしょ。黒い魔力の事は秘密なの」


「そうなの」


「そうよ。虐められちゃうわ」


語調に反して物騒な 事を言う。

リーリエの視線の先には傾いたカード。


「見えないって怖いもの」

彼女は目を伏せて言った。



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