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ノックの音が響く。


「国王陛下がいらっしゃいました」


2人は顔を見合わせた。


「聖女に看病されて回復したか。渡り人は存外体が弱いな」


ズカズカと入ってくるフリードリヒに、ノクスはちらりとビアンカを見た。

こんな横柄な男が好きなのか。

ブランシュも。

リーリエも。


「お陰様で、大分癒されました」


「そうであろう。ビアンカの魔力は特別だからな」


フリードリヒがノクスの向かいのソファにどかりと座る。ビアンカがそちらへ寄る。

ノクスは何も言わず、口だけ笑って返した。


「陛下、スヴァルトハイム様はどうなさったのです」


フリードリヒの横に座るビアンカの肩に手を置き、フリードリヒはビアンカを見た。


「あぁ。あれは『もう大人だ』などと宣ったので老骨共の相手をさせている」


侍従が三人のお茶とケーキを新たに用意した。


フリードリヒの傲慢な笑顔を、ノクスは冷ややかな態度で見ていた。

自分にもビアンカにも見えないが、きっと今この時も、フリードリヒはビアンカの白い魔力に包まてれて良い気分になっているのだろう。

尊大な態度はそれによるものなのか、彼の本来の気質なのかまでは、ノクスには判じかねた。


「ファルネ。こちらの世界はどうだ。故郷と違うところはあるだろうか。我がエルディフィアは新興国でな。他国の良いものは参考にしたいのだ」


気軽に話してくれと水を向けるフリードリヒに、ノクスは驚いた。

ノクスは王族だが道具として扱われ、隠された存在だった。


自国の話をするなんて、稀なことだった。

それに、フリードリヒの態度。街や馬車の中にいた、感情的な彼とは印象がまるで違う。

素面に戻っている、という感じがする。

思わずビアンカを見た。

彼女は小さく「ほらね」と言った。

白の魔力に酔っても、酔いつぶれない胆力があるように感じた。


「なんだ、いつの間に囁きあう仲になったんだ」


フリードリヒはビアンカの肩に伸ばしていた手で、優しく彼女を揺らした。


「まぁ、嬉しい。嫉妬ですか」


ビアンカはフリードリヒの肩に頭を預けた。

フリードリヒは満足そうに笑った。


「ビアンカの故郷は冬に赤い花が咲いて雪に映えると言っていたな」


「ええ。椿と言うのですよ。白い椿もありますが、私は赤い椿が好きでした」


「そうか。ツバキはこの国にはないが、今度赤い花を贈ろう」


そう言って紅茶を飲むフリードリヒは、機嫌が良かった。


「ファルネの国にはこの国には珍しいものはあるのかね」


「そうですね」


ノクスは口元に手を置き逡巡する。

あるものは、すぐには思い浮かばない。しかし、無いものならすぐに浮かぶ。リーリエと深く結びついた記憶だから。


「私の国には魔法という概念がございません」


「ほう」


「炎を出すには摩擦や火花を起こして火を育てなければならず、水を飲むには水場に行かなければなりません」


ノクスの説明を、フリードリヒは興味深そうに聞いていた。


「陛下に出していただいた雪などは、寒い季節にしか見ることはかないません」


先程はありがとうございました。ノクスは丁寧に礼をした。

フリードリヒはゆっくり瞬きをして「よい」とだけ言った。


「全く不便な国だ。では馬車でのあれは魔法ではないと言うのか」


不意に鋭い目をするフリードリヒに、ノクスは飲んでいた紅茶を置いた。


「陛下。私は魔法陣どころか、魔力というものが見えません」


ノクスはフリードリヒの金色にきらめく瞳を真っ直ぐに見つめ返した。


「なんだと。では、この聖女の魔力も見えないというのか」


「はい」


「先程癒されたと言っていただろう」


「あれは、聖女様に冷えたタオルと炭酸水を頂き、お声をかけていただいたお心遣いに癒されたと申したのです」


澄まし顔のノクスにフリードリヒは呆れた顔を隠さなかった。

こんな、魔力の流れも見えない男の何が大魔法使いとまで言われた魔法オタクのリーリエの心を掴んだのか。


「では馬車の、あれは」


「陛下に倒れてしまったことでしょうか。申し訳ありませんでした。あれほど驚かれるとは思っておりませんでした」


もう一度、綺麗な姿勢で頭を下げるノクスの眉は悲しそうに下がっていた。


嘘を吐いているようには見えなかった。

フリードリヒは神妙な顔をした。

ノクスが触れた時のあの感覚。あれを無意識にしているとしたら由々しき事態だ。


・・・この男の性質、リリは知っていたのではないか。

だから召喚してすぐに魔法塔にこと男を隠した。

それならばリーリエがノクスと共にいる事の合点がいく。

フリードリヒは心の中で笑みを漏らした。

なるほど、やはりこの男はリリの観察対象なのだ。


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