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話が終わり、リーリエが立ち上がると、シュトラウス侯爵が止めた。


「少し、個人的な話をいいかね」


やけに落ち着いた声だった。

リーリエは「どうしました」と座り直す。


「成人のお披露目はどうするつもりなのですかな」


唐突な質問にリーリエは青い目を瞬かせた。


「半年近く先ですし、まだ何も・・・」


「それはいけませんな」

「そうですな」

「いけませんね」


わらわらとおじ様方が集まってきた。


「因みにいつ頃かお聞きしても?」


背の高い騎士のヴァイスハイトが、リーリエを上から見下ろしてくる。

何となくワクワクした気持ちを察しはするが、意図が分からずリーリエは目を泳がせる。

この質問の答えも、彼らを落胆させそうだ。


「え、と。誕生日が、その、オリアナ姫のお輿入れの日なので、その後でしょうか」


どよめきが広がる。その態度にリーリエが驚いているとシュトラウス侯爵が切り出してきた。


「それでは、後見人の陛下はお忙しいのでは?」


「ええ、そうですね」


王権派の方々もそれはそれはお輿入れを楽しみにしているので、リーリエはオリアナ様がエルディフィアで落ち着かれてから自分でゆっくり成人の用意をしようと考えていた。


誰かが呟く。

「あのボンクラは何をしているんだ」


「え」


振り返るリーリエに答えはない。


「こちらである程度用意致しましょう」


スルッと話を進めるシュトラウスにリーリエは目を丸くした。


「え、アル様?そんな、派閥も違いますのに」


思わず愛称を呼ぶリーリエに、シュトラウスはしたり顔で笑う。彼に、心の中ではいつも愛称で呼んでいるとバレてしまった。


「リーリエ嬢。あなたの成人のお披露目が上手くいかなければ、私の誓約が不履行になってしまいます」


シュトラウスは真顔で言う。彼の誓約書には『貴方の尊厳を奪わない』と書いてある。


「不履行」


「そうですね、私の誓約も」

「私もそうですね」


次々と頷くおじ様たちにリーリエは目を丸くした。


「リーリエ様。私たちを、いつまでも少女を蹴落として悦に浸る外道と思わないで頂きたい」

「なに、ちょっと出資している花屋がたまたまあなたに花を送るだけですよ」

「そうですよ。成人の祝いに、目をかけている宝石店がたまたま妖精公爵の為にネックレスを作っただけですよ」

「贅沢品を扱う商会なら誰でも貴女に恩を感じているものですからね」


リーリエは次々と繰り出される理屈に懐柔された。


「そ、それでは商会の方のご好意という事でしょうか」


そういう体でしょうか。

リーリエは目の前の貴族たちの利益を思う。


「そうですね」

「そうですね」


シュトラウス達がしたり顔で頷く。

やはり、ビジネストークという訳だ。

しかし、それを知りつつもリーリエは心が暖かくなる。


「・・・お父様が沢山出来たみたい」


恥ずかしそうにぽつりとこぼす成人前の少女。シュトラウス達は後ろめたさに動きが止まる。


皆リーリエの五年間の重みを知る。

当時十歳のリーリエが、両親と離れてフリードリヒから貰った魔導書を頼りに戦場を駆け抜け、王や他の臣下と共に建国まで成し遂げ今この場にいるのだ。

最近の目に余るフリードリヒのリーリエに対する態度を見かねたのもある。

妖精公爵の成人のお披露目に、出資している商会が絡んで自分たちの懐を潤わせる算段もある。

それにもまして、健気で不憫なこの少女に何かしてあげたい親心が育っているのも確かで。


大部分の好意と少しのビジネスチャンスを少女の嬉しそうな顔が貫いて、貴族たちは笑った。

そはの時。


ちりん。



貴族たちはびくりと肩を震わせた。

その音は魔導書から鳴ったように感じた。既視感に冷や汗が出る。


「な、なんの音かな」


「すみません。行かなくては」


シュトラウスの質問には答えず、リーリエはテーブルに置いた魔導書のページを捲る。


リーリエ、見つけたページをシュトラウスは盗み見たが、そこは相変わらず白紙だった。


「皆様、失礼致します」


魔導書を広げたまま片手でスカートの裾を引きカーテシーをすると、扉に向かって手を伸ばし、ノックした。

シュトラウスたちは困惑した。外は廊下だ。退出するのにノックするとはどういう事だろう。

しかし、彼らの疑問をよそに、外から声が帰ってきた。


「入れ」


それはフリードリヒの声だった。

リーリエは躊躇わず扉を開ける。

そこは廊下ではなかった。

白と深い緑色を基調とした落ち着いた色合いの、しかし贅を尽くした部屋。

ビアンカの部屋だ。


「失礼いたします」


シュトラウス達が瞠目する中、リーリエは扉を潜り、振り返ると、薄桃色の口に人差し指を添えてお父様たちに囁いた。


「これも、秘密ですよ」


扉が閉まる。

シュトラウスたちはしばし顔を見合わせていたが、文官のコルネリウスが恐る恐る扉を開けた。

そこは廊下だった。


「今、スヴァルトハイム公爵は通ったかな」


入口に立つ騎士に問うと、騎士は真面目な顔をして「いえ。先程公爵閣下がお入りになってからはどなたも」と答えた。


室内の貴族は、また顔を見合せた。


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