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「リーリエ嬢、勘弁してくれ」


冷や汗をかいたシュトラウスが青い顔をしてリーリエの椅子を引いた。

彼は魔導書の誓約でリーリエのいるところでは彼女の尊厳を守らなければならない。リーリエを子供扱いして話すフリードリヒに噛み付いてしまう。

だからリーリエは「大切な陛下」と語尾を強めて自分の大切なものを守るという誓約を適用させようとしたのだ。


「すみません。何故か付いて来てしまって」


フリードリヒを子供のように表現するリーリエに力なく笑うと、シュトラウスも席についた。


「さて、話を致しましょう。お集まりいただきありがとうございます」

リーリエはぴしりと背筋を伸ばした。


目の前には錚々たる顔ぶれが並ぶ。


神官ベネディクト・カストゥス

マティアス・フォン・ローゼンベルク

騎士のディートリヒ・ヴァイスハイト

文官アドリアン・コルネリウス

フランツ・カフマン


皆手紙を持っていた。スヴァルトハイム侯爵家の紋章で封蝋してある。


「皆様は、誓約書の内容を伏せるなら、他の方に話してもいいとの事でしたので、お呼びしました」


「よくも、これだけの面子に嫌われましたな」

自分のことは棚に上げた神官カストゥスが言う。


「あら、お手紙では私への誤解が解けたと思っておりますよ」


「私はもう以前ほど嫌っておりませんよ。政策や国の方針には思うところはありますがね」


リーリエの言葉に慌てて続ける神官カストゥスに、リーリエは微笑んだ。


「そうですね。陛下も人の子ですので間違えることはありますでしょう。国を正すことを禁止する誓約書は存在いたしませんので頑張って頂きたいです」


リーリエの隣でシュトラウス侯爵が頷く。


「リーリエ嬢はまだ未成年であるからな。公の場では私たちが陛下をお諌めせねばならん」


「そうなんです。今日集まっていただいたのはその件なんです。」


「承知している。最近陛下のご様子ががおかしいのは周知の事実だ」


騎士ヴァイスハイトが言う。彼は王の近衛も勤めた実力者だ。リーリエが魔導書を辿って邂逅した時は本当に驚いたものだ。


「 ヴァイスハイト様、それは陛下に限ったことではございません。手紙に書いたように、今城の中は聖女様の魔力でみんなほろ酔いなのです」


きりりとした顔を騎士ディートリヒ・ヴァイスハイトに向けると、彼は意地悪そうに笑った。


「おや、よそよそしい事だ。手紙ではディー様と呼んでくれていたではありせんか」


「えっ。いえ、それは手紙の中だけの・・・」


急な返しにリーリエはぱっと頬を染めた。


「それならば私もアル様と呼んでいただかなくては」


アルベルト・フォン・シュトラウス侯爵までもが乗ってくる。

他の貴族も面白がって参戦してくる。


「やめてください。うぅ、恐れ多いです」


真っ赤な顔を手で覆いながら小さく声を漏らすリーリエに一同は笑った。


「ほんとうに不思議なものよ。こんな事で真っ赤になるお嬢さんがあんな誓約書を書くとは」


騎士のヴァイスハイトがポロリと言うと、文官のカフマンが頷く。


「私も思っておりました。手紙の中の令嬢と、あのような誓約書を書く公爵が同じ人物なのかと」


皆自分の誓約書の非情な内容に身震いし、リーリエを横目で見る。

彼女は顔のほてりをおさめるために手であおいでいたが、視線に気づくと咳払いをして難しい顔をした。


「その事なんですが」


ケープを捲り、リーリエが腰のブックホルダーから取り出した魔導書に、一同ぎくりとした。魔導書の苦い思い出が蘇る。


ペラペラと白紙にしか見えないページをめくり続け、不意に指が止まる。

リーリエがページに手をかざすと、ページに魔法陣が浮かび上がった。



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