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「ノクス・ファルネとは何者だ」


騎士を下がらせ、フリードリヒはリーリエに問う言葉は硬い。


「何って、渡り人ですよ」


フリードリヒの隣を歩くリーリエは真っ直ぐ前を向いてつまらなそうに言った。


「はぐらかすな。召喚したのはお前だろう。あいつの本性はなんだ。異界の魔法使いか?魔物か?」


矢継ぎ早に問う王にリーリエはため息を着く。


「落ち着いて、フリッツ」


久しぶりに呼ばれた愛称にフリードリヒの胸は熱くなった。


「白い魔力に酔ってるんじゃない?」


心配そうに顔を覗き込むリーリエに、フリードリヒは怪訝な顔をした。


「白い魔力?酔うとはなんだ」


魔力に種類などあるのか。それに魔力に酔うとはなんだ。


いつもは魔法に関する講釈を煙たがるフリードリヒが質問したことに驚いたが、嬉しさが勝りリーリエの瞳に熱がこもる。


「ビアンカ様の白い魔力は、大地を潤す奇跡の源泉です。しかし、おそらく人が接するには濃すぎて酩酊してしまうように思います」


フリードリヒは始終ビアンカと共にいる。たしかに彼女と共にいると気分が良くて心のブレーキが緩いような気がする。


「お気をつけくださいね、酔っ払い陛下」


コソッと言ってくるいつものリーリエに口元を緩めたフリードリヒは小さく言い返した。


「こまっしゃくれた事を言うな。お前こそ気をつけるんだな、色ボケ公爵よ」


「は、はぁ?」


真っ赤になって大声を出すリーリエの背をフリードリヒは軽く叩く。


「相当な腹黒に惚れ込んだものだ」


「え、なに?自虐?」


「なぜ私が腹黒なんだ」


リーリエはあっと口をおさえたが、フリードリヒは彼女のミスに気づかなかった。


「ファルネは危ないヤツだから、城で面倒見てやっても良いぞ」


そのまま話を続けるフリードリヒ。

素面で気付かないふりをしているのか。それとも本当に白い魔力に酔っているのだろうか。


リーリエはフリードリヒの顔をこっそり見た。正確には、フリードリヒの中の、魔力の様子を観察した。

街では見えなかった部分まで。

彼の中の、溢れそうなほどの白い魔力。その奥に煤のように溜まる黒い魔力。

フリードリヒは昔から黒い魔力が溜まりやすい体質だ。

この体質では魔法使いになるのは難しい。フリードリヒは魔法使いを夢見たことはないけれど。

リーリエは、フリードリヒに王という職業があって良かったと思った。

それにこの体質のお陰で白い魔力がめいっぱい入っても大した量にはならないためにほろ酔い程度で済んでいるのだとリーリエは思った。


リーリエは目を細めた。

フリードリヒが魔力でほろ酔いのおかげで失言に気づかなかったのだろうか。

「ありがとう。でも、魔法塔の方がいいと思う」

リーリエはやけに真面目な顔で言った。

いつもなら自分も口を滑らせるなんて考えられない。自分も白い魔力にあてられているのだろうか。


「あ」


リーリエの足が止まる。

「どうした?」

二歩先に出たフリードリヒが不審そうに振り返る。


彼女は今気づいた。

ビアンカから溢れる白い魔力に触れて気持ちが良くなるように、ノクスに黒い魔力を抜かれても気持ちが良いのだ。

白い魔力が体に満ちて、酩酊したような多幸感に包まれるなら。

黒い魔力が抜けて、フリードリヒはどうなった。

フリードリヒの様子に戦時下での事を思い出す。

魔力が体から殆ど出てしまって、体は動かなくなって、体が勝手に大気から魔力を物凄い速さで吸収して体が軋んだ。

倒れるほど喉が渇いて水を欲するような感覚。

馬車でのフリードリヒ。

彼の黒い魔力の流れ。瞳が開いて、寒いのに汗が滲んで、喘ぐように息を吸った。


渇き。


その単語にハッとする。


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