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がたんと馬車が揺れ、フリードリヒが、はっとする。
「到着でございます」
フリードリヒは大きく息を吐くと、馬車から降りた。
すました顔のビアンカをエスコートし、リーリエを待つと、ノクスが降りてきてリーリエの手を引いた。
フリードリヒの脳裏に先程の衝撃が蘇り、急いでリーリエの手を取った。
「陛下?」
困惑するリーリエをビアンカの方に寄せ、ノクスを睨む。
「リリに触れるんじゃない」
ノクスは何も言わずじっとフリードリヒを見た。
ノクスはフリードリヒに合う前から彼のことが嫌いだった。リーリエが時折城に行く時、いつも気にしない前髪や服の襟なんかを入念に気にして出かけるのを知っていた。その時の、少し嬉しそうな顔も。
フリードリヒもノクスを見た。
ノクスからは魔力を感じない。体格も痩せ型で、フリードリヒより背も低い。威圧感の欠片も感じない。
なのにどうして。
その黒い瞳に吸い込まれそうになり、フリードリヒはふっと視線を逸らす。
リーリエはフリードリヒのノクスへの拒否反応に動揺していた。
リーリエがノクスに黒の魔力を吸われる時は魔法陣を描く時に自分の黒い魔力を使う時に似ていた。
悪いものが体から抜けて爽快になっていく感覚に気分が良くて、思わず筆が乗る。頭がちょっとぼんやりするから筆が止まらず余計な装飾をしてしまったりするのだ。
リーリエはフリードリヒを見る。彼は明らかに敵意を向けている。
私と彼とでは、感じ方が違うのかもしれない。
フリードリヒの話を聞きたい。
リーリエはフリードリヒの袖を引く。
二人の視線が交わる。
「スヴァルトハイム様」
脇から騎士がやってくる。
「シュトラウス侯爵がお待ちです」
「シュトラウスが?」
リーリエが答えるより早く、フリードリヒが振り返る。
敵対派閥のシュトラウスが、リーリエになんの用だ。
フリードリヒがリーリエを見ると、彼女は澄ました顔をした。彼女は後暗いことは何も無いが、相手が相手だけにフリードリヒに知られたくなかった。
この場をすぐに離れたくて、リーリエは適当なカーテシーをした。
「陛下、お送りいただき感謝致します。それでは」
「ま、まて」
思わずフリードリヒは彼女の手を取る。細い腕だ。
「はい」
「ファルネはどうする」
リーリエはノクスを見た。
するとリーリエの後ろからビアンカが言う。
「私と一緒におりましょう。まだ顔色も良くないですし。休みながら、渡ってきた者同士、お話したいわ」
「え」
リーリエは動揺した。
フリードリヒが言う。
「ああ、そうしてくれ。私はスヴァルトハイム公と共にシュトラウス侯に挨拶してこよう」
「え」
今度はノクスが動揺した。
「では行こう。リリ」
フリードリヒは腕を曲げてそれをリーリエの手に掴ませる。
「さ、参りましょう。ファルネ様」
ビアンカはノクスのエスコートを待たず、彼の腕に自分の腕を絡めた。
流れるような所作に、ノクスとリーリエは抗う隙もなかった。




