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戦争が終わった。
建国されたばかりのエルディフィア王国。その城内で、フリードリヒ・リューン国王は銀髪の魔法使いを見つけた。
「スヴァルトハイム、なぜ呼んだのに応じない」
問い詰めるような言葉に、魔法使いリーリエ・スヴァルトハイムは適当なカーテシーをしながら首をかしげた。
回廊の外から差し込む陽の光に煌めきながら、銀の髪がサラサラと方から落ちた。
「なんだ、魔導書を持っていないじゃないか」
自分の呼び出しに必要な物を持っていないリーリエに、フリードリヒは眉を寄せた。
「なくしたみたいです」
平然と言う。
フリードリヒは歩を止めた。金の瞳が少女を射抜く。
「……また?」
「はい」
「探さなくていいのか」
「大丈夫です。私の本賢いので」
リーリエはにっこり笑う。
「迷子だって気づいたら教えてくれるんです」
「本が?どうやって」
「助けてーって」
フリードリヒが沈黙したので、 リーリエは自分の口元に両手を持ってきて空に向かってもう一度「助けてー」と言って、ちらりと彼を見た。
フリードリヒはしばらく彼女を見ていたが、やがて短く息を吐いた。
「そうか。便利なものだ」
いつもの戯言かとフリードリヒは笑いもしない。
リーリエが大丈夫と言って、大丈夫でなかったことはない。
「しかし、魔導書がないのでは私がお前を呼び出せない」
「人を使ってください陛下」
「どこにいるか分からんのに探しに行かせるのは酷だ。早くその迷子を見つけてやれ」
「善処します」
柱の間から光が差し込む。
リーリエの銀の髪がきらりと輝いた。
その時。
回廊の向こうを歩く貴族と目が合った。
保守派の貴族、シュトラウス侯爵だ。
フリードリヒの能力重視の登用に反対しており、彼のためにいつも議会が紛糾する。
リーリエは首を傾げた。
シュトラウス侯爵がこちらを見ることなど稀だ。
戦争と建国に際しての功績という名目で公爵位を賜った、陛下の寵愛頼みの魔法使いの小娘を毛嫌いしている彼が。
(あ、そうか)
リーリエは心の中で、小さく呟く。
(見つけた)
嬉しくもないし、困りもしない声色で。
(でもまだだ)
彼女が探しているのは――
魔導書ではない。
それを開いた人間だ。
なぜなら。
あの本の中身が見えたなら。
その人は。
自分と同じだから。
リーリエは、ほんの少しだけ目を細めた。
(……早く開かないかな)
視線の先の侯爵は嘲るような眼差しで踵を返した。
「どうした」
フリードリヒが侯爵に気づきもせずにリーリエに問う。
「いいえ」
リーリエは微笑んだ。
「なんでもありません」
彼女が探しているのは敵ではない。
――同類だ。




