戦慄の株主総会
「うわぁっっっ!!!!!!!!!!!」
青葉賞を勝った翌日、ブリブリレジェンドのジョッキーである山岡は飛び上がるように目を覚ました。
そこが自宅のベッドの上であることに気付くと右手で額の汗をぬぐいながら苦笑した。
「…またあの日の夢だ。もう8年も経つのにな…」
かつて若手ジョッキー山岡ジョーは関東期待のホープとして将来を嘱望されていた。
積極果敢なレース運びと正確なペース判断を武器にデビューから2年目に年間80勝を挙げて全国ベスト10に食い込み、未来の日本競馬界を担う存在とまで謳われた。
しかし若くして残した輝かしい実績は彼を慢心へと誘うこととなる。
強引な手段でリーディング下位の騎手のお手馬を奪うことから始まり、
気に入らない記事を書いた競馬記者への暴力事件も起こした。
レースでは他馬の進路を塞いで降着になった時の処分に納得がいかず裁決室で暴れるなどやりたい放題。
いつしか彼の周囲から人は去っていった。
いくら技術があっても、騎手という職業はまず騎乗依頼がなければ何もできない。
馬に乗せてもらえて初めて結果を出すチャンスが与えられるのである。
傍若無人な振る舞いを続けた結果、馬主からも調教師からも見放された彼はデビュー5年目には年間勝利数が一桁に落ち込んだ。
思い通りにいかないもどかしさに、飲めない酒に手を出して潰れる日々が続いた。
そんなある日、彼の住むアパートの一室に初老の男がやってきた。
「こんばんは山岡クン」
…誰だ?
時計を見ると夜の11時。
こんな時間に見ず知らずの男が部屋を訪ねてくるなんて…と不審に思ったが、
周囲から人が去り寂しい夜を繰り返してきた彼は話相手欲しさに男を部屋に上げることを決めた。
「茶は出さねえぜ。こんな時間に俺に何の用だ?いや、その前にあんたは誰なんだ?調教師…ではねえよな」
「質問は一つずつにしてもらわないと困ってしまうな。とりあえず私が何者かという質問の答えだがね…」
男は微笑を浮かべたままウーンとわざとらしく唸った。
「フフ…『地球を守っている男』、と名乗っておこうかな」
「ははっ。自然保護活動でもしてるのかい、それとも絶滅危惧種の保全か。
いずれにしても今の俺は地球のことを考えている余裕なんか無い。
毎日食べていくことで精いっぱいなんだよ。帰ってくれ」
「失礼ながら君の経歴を調べさせてもらった。レースでの騎乗もね。
運動能力・判断力が高いが精神面が未熟、競馬界で干されつつあるのはそのためだ。
しかしだ。私たちの組織は君の能力を極めて高く評価している。
そして世界のために君が必要なんだ」
「…どういうことだ?」
「窓の外を見たまえ」
「…………!!おい、なんだよアレは!?」
部屋を飛び出してアパートの階段を駆け下り、裏手に回った。
そこには巨大なロボットが寝そべるように置かれていた。
「な…なんだこれ!?」
狼狽えている山岡の肩に、男の右手がポンと置かれた。
「これが君が搭乗するロボット『エクスカール』だ」
「お、俺がこの機体に…!?」
山岡はフラフラとロボットの頭部に近づいていった。
コックピットに乗り込み目の前にあったレバーを上げると、ロボットは立ち上がり雄叫びのような音を鳴り響かせた。
「オ オ オ オ オ オ オ オ … …」
「フフ…どうやらエクスカールも君を気に入ってくれたみたいだよ」
「そうか…へへっ!よろしくなエクス!」
山岡「…っていう熱いストーリーなんですが、どうですか?来週から連載いけますかね?」
編集さん「よくこれを持ち込もうと思ったね」
山岡「死ね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
漫画家への転職という夢破れた山岡はさらに腐っていき、勝ち星はさらに減っていった。
8年前のこの日の悔しさは忘れない。忘れるはずがない。
ダービーまで、あと一ヵ月だ。




