第73話 二十歳(2)
2003年3月、20歳のジフン
ジフンは、新入生オリエンテーションに参加したことを、すぐに後悔した。初めて会う知らない人たちに、どうにも馴染めず、少し離れたところに座って酒ばかり飲んでいた。周りに人はいたが、いつもの友達といるときのように、面白い話が行き交うわけではなかった。
「初めまして。シン・ヒョヌっていいます。二十歳ですか?」
ジフンはうなずいた。
「何だ、じゃあ同い年じゃん。よろしくな」
気さくに話しかけてくる姿に、ジフンも警戒を解いた。年齢を言いながら自己紹介してみると、浪人した人も、すでに現場で働いてから入学した人もいて、みんなが同い年というわけではなかった。失礼がないようにと敬語を使っていたところに、先にくだけた口調で話してくれたヒョヌの人懐っこさは、うらやましかった。ヒョヌのおかげで、その場の空気も少し活気づいた。
場が場だけに、酒のゲームまで持ち出すような大騒ぎにはなっていなかった。初めて酒を飲む人も多く、気軽には勧められなかった。ヒョヌの話術は、そんな人たちの警戒まで解き、ビールのグラスを一杯ずつ手に持たせた。二年生の先輩も何人か混じっていた。学校生活についてあれこれ教え、後輩たちと仲よくなろうとしていた。ホテル調理科は、男子よりも女子のほうが多かった。ぎこちない雰囲気の中、男女が互いをうかがっている様子も見えた。
「ジフン、こっちで一緒に飲もうぜ」
ヒョヌが、自分の隣へジフンを引っ張っていった。
酒が飲めるメンバーだけを集めてきたようだった。二年生の先輩をはじめ、何人かが笑ってしゃべりながら、グラスを満たしては空けていた。
「調理科なんて、たいしたことねえ! 調理科!」
「ファイト!」
誰が考えたのかわからない掛け声を、先輩に続いて熱心に叫び、グラスをぶつけ合っていた。ジフンは無理に合わせた。その輪の中でも、ひときわ大きな声が場を盛り上げていた。
「先輩!」
「ん? どうした、ちびっこ新入生」
先輩のからかいに、みんな吹き出した。
「調理科って、先輩にご飯おごってくださいって言うと、作ってくれるって聞いたんですけど、本当ですか!」
「誰だ、そんなこと言ったやつは!」
なぜなのかわからなかったが、みんな怒鳴るような声で話していた。これが酒の力なのかと思いながら、初めて見る光景を興味深く眺めた。
「俺たちだって、店に連れてっておごるんだよ!」
女子の新入生たちが歓声を上げた。男子の新入生たちは、女子の先輩に同じ質問をして笑った。
――飯をおごってもらえなくて死んだ幽霊でも憑いてんのか。
その人たちの中に、ひときわ目を引く子がいた。『ちびっこ新入生』と呼ばれていたその子は、肩まで届くボブに、アイボリーのTシャツを着ていた。丸い眼鏡のせいで、顔がいっそう丸く見えた。ジフンは彼女の視線を避けた。余計なことを考えるなと、首を振った。意識しているのは、自分だけらしかった。
退屈になったジフンは、そっと席を立った。ポケットを探り、タバコを取り出した。外では、すでにあちこちで人がタバコを吸っていた。外へ出ても、騒がしくしゃべっていた。ヒョヌもあとから出てきて、ジフンの肩に手を置いた。
「ジフン! タバコ吸うの? 一緒に行こうぜ」
「ああ。タバコ仲間ができたな」
ヒョヌもタバコを吸うのが、内心うれしかった。ジフンが一本取り出してくわえると、わざわざ火までつけてくれた。
「楽しくない?」
「うん。思ったよりはな。でも俺、人が多いの、ちょっと苦手でさ」
「はは。そんな感じする。別にいいじゃん」
気楽に話せる友達ができたのはよかったが、そろそろ酒を切り上げて眠りたかった。中へ戻ろうかと思っていたところに、後ろから誰かが声をかけた。
「ねえ、私も混ぜて!」
振り返ったが、あまりに小さくて、ずいぶん下まで視線を下げなければならなかった。その身長差には覚えがあり、嫌な記憶を呼び起こされた。ヒョヌがタバコを一本取り出して差し出すと、その子は受け取り、火をつけた。
「二人、名前は何ていうの? そっちは、ヒョヌ……だったっけ?」
「うん。シン・ヒョヌ。こっちは……」
「イム・ジフン」
「そっか。よろしく。私はコ・ユジン」
三人はタバコの煙を吐きながら、言葉を交わした。オリエンテーションの夜は更けていった。




