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第66話 第1部 エピローグ デヒョン(1)

2002年7月、19歳のデヒョン


 祭りのように盛り上がったワールドカップが終わり、再び穏やかな日々が戻ってきた。人々は、そんなことなどなかったかのように日常へ戻った。学校では、いつもどおり期末試験が行われた。デヒョンは友達と試合を見に出かけながらも、試験の準備はしておいた。

「みんな、一学期お疲れさま。夏休みのほうが大事だからな。きちんと計画を立てて、しっかり勉強しておくように。じゃあ、また二学期に。委員長」

「気をつけ。礼」

「ありがとうございました!!」

 一学期最後のホームルームが終わり、一か月半の短い夏休みが始まった。ここ数日、勉強のことばかり考えていたせいか、全身から力が抜けていくようだった。早く家に帰ろうと、鞄をまとめて教室を出た。


 教室の前にはヒジェがいた。

「行こうぜ」

「ああ、行こう」

 途中でインスと合流し、ジフンにも会った。いつもの隠れ家に着くと、チョンウォンは先に来て待っていた。

「芸術・スポーツ系のクラスって、何でいつもそんなに早く終わるんだよ」

「お前らが先生だったら、ほかに何を言う? 問題起こすな、実技の準備しっかりやれ。以上」

 チョンウォンも、ずいぶん気楽なものだと思った。

「ジフンは? お前も内申はそれなりに必要なんじゃないの?」

「専門大学なら、何とかなるってさ」

「そうか。それならいいな。インスは、言われなくてもちゃんとやるだろうし」

 ジフンも似たようなものだった。ほかに勉強しているのは、インスだけだった。

「何で俺には聞かねえんだよ」

「お前は……どうしようもねえから」

 ヒジェは理系の最下位を担当していた。不思議なことに、まったく勉強していないわけでもなかった。

「俺は修能に全部賭けてるんだよ」

 のんきな言葉に、みんな笑った。今日の放課後は、ビリヤード場に行くことになった。


「夏休み、みんな何するんだ?」

「……」

 デヒョンは友達と勉強でもしたかったが、みんな特に予定はないようだった。修能までは、もう四か月しかなかった。これ以上遊んでいる場合ではないと思った。そしてデヒョンは、まだどこの大学の、どの学科を志望するかも決められずにいた。


 両親にそれとなく聖職者になりたいと話したとき、母は仕方ないわねと、渋々ながら応援してくれた。父は烈火のごとく怒った。

「たった一人の息子を、神父にするために勉強させてきたと思ってるのか!」

 口数の多い姉も、そのときばかりは黙っていた。押し通せば、両親もいずれはわかってくれる。それはわかっていた。修能が間近に迫った今になっても決心できないのは、ひとえに自分自身の問題だった。ジフンはその話を忘れたのか、あれから一度も話題にしなかった。ヒジェも何となく知っているようだったが、根掘り葉掘り聞いてきたりはしなかった。勉強のことも、進路のことも話す相手がいなくなったデヒョンは、こうして友達と遊んでいるときでさえ、寂しさを感じていた。



 翌日、夏休み初日から約束があった。朝昼兼用の食事を軽く済ませ、早めに出かける準備を始めた。何を着ればいいのか、髪はどう整えればいいのか、困った。普段よく着る服はあったが、今日にふさわしいのか、ずいぶん悩んだ。洗面所と部屋を忙しく行き来する姿に、姉が興味を示した。

「あんた、高三なのにデートでもすんの?」

「ほっとけよ。姉ちゃんこそ、男とデートでもしてこいよ」

「こっちは腐るほどいるの。選び放題よ、バカ」

 デヒョンは、自分とそっくりな姉の顔をしばらく眺めた。自分の顔に長い髪をつけただけの姉と、いったい誰がそんなに会いたがるのかと思ったが、その自信のおかげなのかもしれなかった。

「全員どうかしてるんだよ。俺にはわかる」

「あんたに何がわかるのよ!」

 一つ違いの姉弟は、何かにつけてぶつかった。それでも、鼻を垂らしていたころに比べれば、このくらいは何でもなかった。

「デヒョン。お姉ちゃんは、こう思うんだけど」

 髪を整えていたデヒョンは、急に声の調子を落とした姉が、また何をばかなことを言い出すのかと振り向いた。

「人間って、いろんなことをしなきゃいけないの。いろんな経験をね。恋愛だってそう」

「高三で恋愛なんかしてる場合かよ」

 そう言うわりには、精いっぱいめかし込んでいたが、姉の言いたいことは何となくわかった。姉の言うように、恋愛をしているわけではなかった。だからといって、今日は適当な服を着て出かける気にもなれなかった。時間が近づいているのを確かめ、家を出た。


 待ち合わせの時間から三十分が過ぎても、デヒョンは待っていた。もうすぐ着くという言葉に、その場に立ったまま地下鉄の出口だけを見つめていた。やがて遠くに、懐かしい顔が見えた。一年ぶりで、しかも一度しか会ったことのない相手だった。それでも、どこか見慣れた顔に思えた。

「わあ、カン・デヒョン。本当に久しぶり。元気だった?」

「うん。ミラ、来るの大丈夫だった?」

「ソウル、ものすごくややこしいね。面接も思ったより遅く終わったし。地下鉄も難しかったけど、それでもすぐに道はわかったよ。待たせてごめん」

「大丈夫。腹減ってない?」

「減ってる。ソウルの味を味わわせてよ」

 カンヌン生まれ、カンヌン育ちのミラは、一学期の随時募集の面接を受けるためにソウルへ来ていた。ソウルの味と言われても、何がそうなのか見当がつかなかった。結局、知っている中でいちばん人気のあるレストランへ連れていった。

「わあ、いい雰囲気。こういうところなら、ご飯もおいしいでしょ」

「カンヌンにも、このくらいの店はあるだろ?」

「それでも、ソウルで食べると気分が違うの」

 二人は席に着き、注文した。パスタと炒めご飯、サラダだった。先に運ばれてきた飲み物を一口ずつ飲みながら、話をした。


「面接、どうだった? あそこ、倍率すごいだろ」

「いい大学だから、仕方ないよ。だめだったら、一般募集に向けて頑張らなきゃ」

 ミラが志望したのは、シンチョンにある、ソウルでも上位に入る大学の医学部だった。デヒョンにとっても、心のどこかで行きたいと思っている大学だった。

「それで、デヒョンは? 今も神学大学?」

「実は、よくわかんないんだ」

「ええ。もう七月なのに、まだわかんないって、遅くない?」

 デヒョンはうなずいた。今では、本当に確かな信仰を持っていたのかさえ、わからなくなっていた。

「でも、デヒョンがどこに行って、どうなるかはわからないけど」

 ミラはテーブルのパスタをフォークにたっぷり巻きつけ、口に運んでから続けた。

「そんなに悩むんだったら、進むべき道じゃないんじゃない?」


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