第61話 人形の騎士(2)
二人は、そうして長いこと景色を眺めた。いくら見ても飽きなかったが、ジフンはセハが退屈していないかと気にしていた。
「どう? 楽しい?」
「え? 何を聞くの。楽しいに決まってるじゃない」
幸い、何をしても楽しんでくれた。どんな話にも耳を傾け、相槌を打ってくれる子だった。
「そういえば、聞くの忘れてたけど、試験の結果はどうだった?」
ジフンの顔が、急に曇った。
「あの……俺なりに頑張ったんだけど……確かに言えるのは、中間試験のときよりは、それなりに上がったってこと」
セハはくすくす笑い、指を絡めてしっかり握った。
「それならいいじゃない。一緒に勉強した時間も、無駄じゃなかったでしょ?」
「うん。それは確かだよ。セハがいなかったら、それだってできなかった」
「それで、何点だったの?」
「ええと……あそこが景福宮だから……」
急にとぼけ始めたので、笑いながら言い合った。しかも、そちらは景福宮でもなかった。
「将来のために、今からそうやって少しずつやっておけばいいんだよ。見てると、ジフンだって十分できると思う」
「そうかな……」
ジフンは唇を真一文字に結び、鼻からため息をついた。
「セハ」
「うん?」
「あの……そんなに大事な話じゃないんだけど、前に、将来何をしたいか聞いてくれたじゃない。話したくなったら教えてって」
「うん! 覚えてるよ」
ジフンは、少し伸びて形を整えた短い髪を撫でた。
「俺、本当は韓国文学科に行きたいんだ。作家になりたくて」
ためらった末に口にしたことは、ジフンという子を考えれば、そう想像しにくいものでもなかった。
「わあ。すごく似合ってる」
「うん……でも」
「どうしたの?」
ジフンは手すりを指で軽く叩き、辺りを見回した。
「セハは、ソウルの大学に行くんだろ。俺の成績じゃ無理そうだからさ。地方の大学の韓国文学科に行ったら、あまり会えなくなるんだなって思って……」
ジフンはもう、二年後を見ていた。遠い先のことに思えたが、二学期が過ぎ、慌ただしく三年生を送れば、それほど遠くもない未来だった。
「どうして? あまり会えなくなったら、私がどこかへ逃げちゃうと思うの?」
「それが一番心配なのもあるけど、あと……」
気持ちを正直に伝えてくれるところが、素敵だった。付き合わなければ一生見られなかったかもしれないその姿に、胸がいっぱいになる気さえした。
「あと?」
「兄貴が言うんだよ。そこを出たって食っていけないって」
思ったより現実的な心配に、笑いがこぼれた。ジフンは気恥ずかしそうに、笑い声を上げるセハを見て、一緒に笑った。
「そういう心配は、あとでもいいよ。進める道はいろいろあるんだから」
「そうかな?」
「もちろん。まずは、いい大学の韓国文学科を目指してみて。私が手伝うよ」
ほっとした表情が戻ってきた。そう言ってもらえたら、本当に何の疑いも持たず信じてしまうような目だった。
「これ、ささやかだけどプレゼント」
ジフンは目を丸くして、セハの手の中を見た。
黄色いひよこの形をした、携帯ストラップだった。
「わあ、かわいい。セハみたい」
「ふふ、でしょ。このくちばし、見て。すごくかわいいの」
ジフンはしばらくじっと見つめると、感激したような目で、さっそく自分の携帯につけた。
「見て。これで携帯を見るたび、セハのこと思い出しそう」
「そのためにあげたんだよ」
子供のようにいつまでもいじっている姿は、見ていても飽きなかった。小さな贈り物にもこんなに喜んでくれる。その言葉が、歌のように聞こえた。その声にふと音楽を聴きたくなり、セハは言った。
「DJジフンさん。今日にぴったりの曲はありませんか?」
「それなら、いつだってあるよ」
ジフンは鞄を探り、ウォークマンを取り出した。イヤホンをつけたまま早送りし、慣れた手つきで聴かせたい曲の位置を見つけて、片方を差し出した。セハはイヤホンを耳に入れ、また景色に見入った。
……僕が君の騎士になって いつも君を守るよ そう大きな声で言った……
「いいね……」
抒情的なメロディーが、ときおり風の吹く景色によく似合っていた。
「でも、聴いてると、これって別れの歌じゃない?」
「え? そうなの?」
ジフンは慌ててカセットのケースから歌詞カードを取り出し、しばらく見つめた。
「本当だ。何で気づかなかったんだろう」
「ふふ。そういうとぼけたところ、すごくおかしい」
ジフンは頭をかき、歌詞カードを折ってケースに戻した。
「好きな曲だし、君の騎士になるって歌詞のことしか考えてなかった。やっちゃったな」
「いいよ。本当にいい曲だね。何ていう曲?」
「『人形の騎士』。N.EX.Tの曲だよ」
「いいところだけ覚えてればいいんだよ。もう一回聴こう」
家に帰ったセハは、ベッドにどさりと横になった。長く歩き回って疲れていたが、楽しい一日だった。耳にはまだ、ジフンがささやいてくれた優しい言葉と音楽が残っていた。目を閉じれば、南山の山頂の景色も浮かんでくるようだった。ジフンも疲れているはずだからと、今日は途中で、早く帰るように背中を押した。そのため二、三十分ほど一人で地下鉄に乗ったが、手には温かい感触が残っていて、寂しくなかった。
やがて、携帯が振動する音がした。電話だった。
――ジフンかな?
手に取って画面を確かめた。見覚えのある番号だった。正確には、下四桁が知っている番号と同じだった。出ようかと迷っているうちに、切れた。胸がどきどきした。部屋のどこかへ放り出し、忘れていた仮面を、もう一度探したくなった。落ち着く暇も与えず、電話はすぐにまた鳴った。
「もしもし?」
「セハ? 今、電話しても大丈夫?」
「はい。どうぞ」
ガンウンの姉の声は震えていた。今にも泣き出しそうだった。
「ガンウンが……事故に遭ったの」




