第54話 二つの待ち時間(1)
2001年7月、18歳のセハ
シャープペンシルやボールペンが紙の上を走る音と、問題用紙をめくるかさかさという音だけが、教室を包んでいた。静かな空気と寝不足のせいでまぶたは重かったが、セハはその分、問題用紙の文章にいっそう深く入り込んでいった。
『…It does not always make a loud noise or demand constant attention. Instead, it quietly exists in the background of your daily life, steady and unchanging. You might not notice its presence…』
愛は、いつも大きな音を立てたり、絶えず関心を求めたりするものではなく、日常という背景の中に、穏やかに、変わらず存在しているという文章だった。線を引きながら問題を読んでいると、ふと、ジフンからかかってきた電話を思い出した。
本にできそうなほど、長々とした告白だった。
好きだという言葉が出てくるまで、ずいぶん時間がかかった。
その言葉の数々を思い出し、不意に笑いが漏れた。試験の最中、いきなりくすくす笑い始めたセハを、周りの子たちがちらりと見た。幸い、先生には聞こえなかった。
――初めて会ったのは、カンナム駅だったよね。あのとき、俺は実は……。
長い告白だったが、はっきりと覚えていた。たとえ好きでもない相手からの言葉だったとしても、耳を傾けるだけのものはあった。それほど真心がこもっていた。試験勉強に追われているときの、突然の告白だったが、大きな妨げにはならなかった。電話を切ったあと、問題を解いていても、単語を覚えていても、ふいにあの声や口調が浮かんだが、かえって目が冴え、残りの勉強を一気に終えて眠ることができた。セハは今日も目をしっかり開き、残った問題の答えを一つずつ埋めていった。
「セハ、何かいいことあったんでしょ?」
今日最後の試験だった英語が終わり、帰りのホームルームを待っていると、ヒョンソが近づいてきて尋ねた。
「え? ううん。何でもないよ」
「何でもないわけないでしょ。試験中に笑ってたじゃない」
その言葉に、また、叙事詩のようだったジフンの告白を思い出した。
「何だか、いいことがありそうだね。セハに」
ヒョンソは飾り気のない笑みを浮かべた。セハも笑みを返した。
「そうかもしれないね」
セハは、まだはっきりと返事をしていなかった。その場ですぐに答えるのは難しかった。ジフンの気持ちは、普段からおぼろげに伝わってきていた。一緒にいるときは、いつも真剣な顔でセハと向き合った。一言も聞き逃すまいと耳を傾ける姿は、ありがたくて仕方がなかった。デヒョンへの思いを諦めようと、手紙を持って自習室を出たとき、真っ先に浮かんだのもジフンだった。息苦しかった心を解き放ってくれたのは、無愛想なジフンの、ほんのいくつかの言葉だった。けれど、真っ先に自分の気持ちを伝えたかったのは、ただ秘密を知っている相手だったからなのか、それとも、自分もジフンを好きだったからなのか、わからなかった。何より、間もなく始まる期末試験に集中するために、恋の始まりは少し先に延ばしておきたかった。夏休みが始まれば、しばらく泊まりがけのキャンプにも行かなければならなかった。確かなのは、いつの間にかジフンといることに安らぎを覚え、知らず知らず、その安らぎに寄りかかっていたことだった。
「今、返事しなきゃいけないわけじゃないよね?」
ジフンは、あまりにたくさん話したせいで、息を弾ませていた。数えきれない言葉や文章の末に、ようやく、
「俺、セハが好きなんだ。想像できるより、ずっと」
という告白を伝えてくれた。声は震えていたが、ためらいは感じられなかった。夜も遅いので、酒でも飲んだのかと思ったが、それにしては、言葉があまりにはっきりしていた。その気持ちも知らず、これまで何げなく口にしてきた言葉が、刃となって突き刺さっていたのではないかと思うと、こちらまで胸が痛んだ。それでも、こうして気持ちを伝えてくれたことが、涙が出るほどありがたかった。けれど、今は目の前に開いた本のほうが先だったので、今すぐ返事をしなければならないのかと尋ねた。
「答えたくなったときでいいよ。待ってる」
「うん。ありがとう」
「ああ……じゃあ、俺はこれで」
「ううん、ちょっと待って」
セハは、まだ自分の気持ちを整理できていなかった。断られたのだと受け取られるかもしれないので、ひとまず会う約束をしておきたかった。
「私、期末試験が終わって夏休みに入ったら、すぐに寄宿学校に二週間行ってくるの」
「え? 寄宿学校?」
「うん。うち、チョンデ附属高校でしょ。それで、毎年、休みに生徒を選んで、寄宿学校に行くプログラムがあるの。そこでは携帯も使えないんだ」
「ああ……そうなんだ」
「だから、帰ってくる日に連絡するね。その日に会おう」
セハは急いで手帳を開き、カレンダーを確かめた。
「二十七日。家に帰ってくるのは二十七日だよ。その日に連絡するね」
「わかった……」
小さくなるジフンの声に、笑いがこぼれた。
「もう。どうしてそんなに声が小さくなるの」
「何だか、その日が来ない気がして」
「来るよ。私も、その日を待ってる」
「どんな返事と一緒に来るのかも、怖いし」
「うーん……」
実は、もう心は決まっているのかもしれなかった。ぶっきらぼうなのに優しさのにじむ、ジフンの顔が浮かんだ。その顔を思い浮かべると、心が安らいだ。
「いい返事、かな?」




