第53話 夜更け、酔いにまかせた本音(2)
「でも、その子の言うことも間違ってねえよ。お前の場合、今までよく何も言わずにいられたもんだ」
「それは、お前のせいだったんだって……」
「ああ。くそ。そうだったな」
二人は顔を見合わせて笑った。澄んだ夜空のせいか、いっそうはっきりと響く笑い声だった。
「それに今は、セハの元彼だの何だの、気にしなくていいだろ。とにかく、告白するって決めたんだから、それでいいんじゃねえの?」
そのとおりだった。セハを好きになってから、今日ほど確かな気持ちになれた日はなかった。
「いつ告白するんだよ」
「うーん……期末試験が終わってから?」
期末試験は二週間後からだった。セハの学校も、そう違わないはずだった。期末試験がすべて終わるのは、おそらく三週間後だった。
「ふざけんな」
「何で?」
デヒョンは不満そうな顔をした。そして、ジフンのコップにまた注いだ。立ちのぼるタバコの煙の向こうの目に、何か含みがあった。
「今やれよ。ここで」
「え?」
その言葉が落ちるなり、心臓がどきどきし始めた。
「今しろって。決めた日にやれよ」
「いや、今はちょっと……」
「俺の秘密をばらした罰だと思えばいいだろ」
デヒョンはくっくっと笑いながら、ジフンを見た。いざ告白となると凍りついてしまった姿が、おかしいようだった。
「ふざけて言ってんじゃねえよ。告白って、今日みたいな日にするもんじゃねえの」
ジフンは、心の中で頷いた。家に帰るなり文章を書き、気持ちを整理した。今すぐデヒョンと話したくて、長い道を歩いてきた。今日の決意を、先延ばしにする必要はなかった。
「今日か……それがいい気もする」
「自分の気持ちから逃げんなよ。見てるこっちも、もう面倒くせえよ」
デヒョンは、一度逃げたことのある人だった。一度逃げてしまった心は、元には戻せなかった。ジフンには、デヒョンの言葉の意味がよくわかった。
「でも、時間が遅すぎないか?」
「出なかったら、明日、何の用だったんだって電話が来るだろ。そのときでもいい。今日は、とにかく一度かけてみればいいんだよ」
ジフンは携帯電話を取り出し、しばらく見つめた。もうかなり飲んでいたが、意識は乱れていなかった。いつにも増して、はっきりしていた。酔いが口調に出ていないかと、わざともう二言三言しゃべって、滑舌を確かめた。立ち上がり、まっすぐ歩けるかどうか、一直線に歩いてみたりもした。デヒョンはあくびをしながら、退屈そうに眺めていた。
呼び出し音が聞こえた。セハの好きな歌だった。ときどき電話するたびに耳にする歌なのに、今日は違って聞こえた。この状況に妙に重なる歌詞が、緊張をいっそう高めた。
……今、打ち明けるよ 初めからずっと君を愛してきたと……
「もしもし?」
「あ……」
歌がぷつりと途切れ、聞き慣れた声がした。こんな夜更けには似合わない、明るい声だった。用意していた言葉は、何一つ思い出せなかった。鼓動が頭の中で響いた。
「もしもし? ジフン?」
「あ、うん。俺だよ」
話したいことは、山ほどあった。あふれる気持ちを、いくつかの言葉で表すには、自分の語彙があまりに乏しかった。
「起きてたんだね。何してるの?」
「勉強してる! 来週、試験でしょ? ジフンは、ちゃんと勉強してる?」
セハの学校の試験は、一週間早いようだった。
「ああ……俺は再来週だから、来週からやろうと思ってたんだ」
くすくす笑う声が聞こえた。
「再来週なら、今からやらなきゃ! どこにいるの? 外みたいだけど」
「ヤンジェ川なんだけど……」
セハの話を聞いていると、こうして酒など飲んでいる自分が恥ずかしくなった。こんなときに告白だなんて。電話を切って、逃げ出したくなった。
「話したいことがあって、電話したんだ」
「何の話?」
ジフンは、ぎゅっと目を閉じた。
「俺……実は……」
いつの間にか、足元を川の水がさらさら流れるところまで歩いていた。川の音が、ジフンの言葉をそっと包み隠してくれた。
翌日、ジフンは、どう話したのか、どんな言葉を返されたのか、はっきりとは思い出せなかった。生まれて初めて口にした言葉が、あまりに自分になじみのないものだったので、頭に留めておけなかったのかもしれない。




