↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/74

第53話 夜更け、酔いにまかせた本音(2)

「でも、その子の言うことも間違ってねえよ。お前の場合、今までよく何も言わずにいられたもんだ」

「それは、お前のせいだったんだって……」

「ああ。くそ。そうだったな」

 二人は顔を見合わせて笑った。澄んだ夜空のせいか、いっそうはっきりと響く笑い声だった。

「それに今は、セハの元彼だの何だの、気にしなくていいだろ。とにかく、告白するって決めたんだから、それでいいんじゃねえの?」

 そのとおりだった。セハを好きになってから、今日ほど確かな気持ちになれた日はなかった。


「いつ告白するんだよ」

「うーん……期末試験が終わってから?」

 期末試験は二週間後からだった。セハの学校も、そう違わないはずだった。期末試験がすべて終わるのは、おそらく三週間後だった。

「ふざけんな」

「何で?」

 デヒョンは不満そうな顔をした。そして、ジフンのコップにまた注いだ。立ちのぼるタバコの煙の向こうの目に、何か含みがあった。


「今やれよ。ここで」

「え?」

 その言葉が落ちるなり、心臓がどきどきし始めた。

「今しろって。決めた日にやれよ」

「いや、今はちょっと……」

「俺の秘密をばらした罰だと思えばいいだろ」

 デヒョンはくっくっと笑いながら、ジフンを見た。いざ告白となると凍りついてしまった姿が、おかしいようだった。

「ふざけて言ってんじゃねえよ。告白って、今日みたいな日にするもんじゃねえの」

 ジフンは、心の中で頷いた。家に帰るなり文章を書き、気持ちを整理した。今すぐデヒョンと話したくて、長い道を歩いてきた。今日の決意を、先延ばしにする必要はなかった。

「今日か……それがいい気もする」

「自分の気持ちから逃げんなよ。見てるこっちも、もう面倒くせえよ」


 デヒョンは、一度逃げたことのある人だった。一度逃げてしまった心は、元には戻せなかった。ジフンには、デヒョンの言葉の意味がよくわかった。

「でも、時間が遅すぎないか?」

「出なかったら、明日、何の用だったんだって電話が来るだろ。そのときでもいい。今日は、とにかく一度かけてみればいいんだよ」

 ジフンは携帯電話を取り出し、しばらく見つめた。もうかなり飲んでいたが、意識は乱れていなかった。いつにも増して、はっきりしていた。酔いが口調に出ていないかと、わざともう二言三言しゃべって、滑舌を確かめた。立ち上がり、まっすぐ歩けるかどうか、一直線に歩いてみたりもした。デヒョンはあくびをしながら、退屈そうに眺めていた。

 呼び出し音が聞こえた。セハの好きな歌だった。ときどき電話するたびに耳にする歌なのに、今日は違って聞こえた。この状況に妙に重なる歌詞が、緊張をいっそう高めた。


……今、打ち明けるよ 初めからずっと君を愛してきたと……


「もしもし?」

「あ……」

 歌がぷつりと途切れ、聞き慣れた声がした。こんな夜更けには似合わない、明るい声だった。用意していた言葉は、何一つ思い出せなかった。鼓動が頭の中で響いた。

「もしもし? ジフン?」

「あ、うん。俺だよ」

 話したいことは、山ほどあった。あふれる気持ちを、いくつかの言葉で表すには、自分の語彙があまりに乏しかった。

「起きてたんだね。何してるの?」

「勉強してる! 来週、試験でしょ? ジフンは、ちゃんと勉強してる?」

 セハの学校の試験は、一週間早いようだった。

「ああ……俺は再来週だから、来週からやろうと思ってたんだ」

 くすくす笑う声が聞こえた。

「再来週なら、今からやらなきゃ! どこにいるの? 外みたいだけど」

「ヤンジェ川なんだけど……」

 セハの話を聞いていると、こうして酒など飲んでいる自分が恥ずかしくなった。こんなときに告白だなんて。電話を切って、逃げ出したくなった。

「話したいことがあって、電話したんだ」

「何の話?」

 ジフンは、ぎゅっと目を閉じた。

「俺……実は……」


 いつの間にか、足元を川の水がさらさら流れるところまで歩いていた。川の音が、ジフンの言葉をそっと包み隠してくれた。


 翌日、ジフンは、どう話したのか、どんな言葉を返されたのか、はっきりとは思い出せなかった。生まれて初めて口にした言葉が、あまりに自分になじみのないものだったので、頭に留めておけなかったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。