第52話 夜更け、酔いにまかせた本音(1)
2001年7月、18歳のジフン
「セハに……お前が神学大学に行くこととか……ヒソルのことが好きだってこととか、話しちゃったんだ」
デヒョンは勢いよく立ち上がった。タバコが燃えていく音だけが聞こえた。ジフンは顔を見るのがつらくて、頭を上げられず、靴の先ばかり見ていた。デヒョンは立ったまま、紙コップいっぱいに焼酎を注ぎ、飲み干した。
「何であの子に、俺の話をするんだよ」
冷たい声だった。ジフンが黙ったままでいると、デヒョンは座り直して言った。
「話してみろよ。言わなきゃわかんねえだろ。殴るのは、聞いてからでも遅くねえし」
ジフンは顔を上げた。そして、デヒョンの紙コップを満たしながら答えた。
「自分勝手だった。何を言われても、返す言葉はないよ」
「だから、何でそんな自分勝手なことを考えたんだよ」
ジフンはコップを空にし、苦みのこみ上げる胃をなだめながら答えた。
「セハが、お前を好きだったから」
デヒョンは驚いた顔をした。自分にそんな気持ちを抱いていたなど、考えてもいなかったようだった。
「知らなかっただろ。セハがそうだったことも」
デヒョンは乾いた笑いを漏らして答えた。
「何だよ、それ。知るわけねえだろ」
「今考えても、何でお前のことをセハに話したのか、わからないんだ。何とか諦めさせたかったんだと思う。それでよかったのかは、わからないけど……」
「つまり、お前なりに精いっぱい頭を使ったわけか」
頭を使った挙げ句にしたことが、友達の秘密を話すことだったのなら、あまりにずる賢いと思った。それでも、こうして打ち明けると、胸のつかえは下りた。
「くそ……マジで腹立つな」
とうとう来たかと思った。一発殴られる覚悟もしていたが、どこを、どんなふうに殴られるのかと頭を働かせるうちに、目が回りそうになった。
「それしかなかったのかよ」
「ごめん」
デヒョンが両手を上げたので、ジフンは反射的にびくりとした。けれど、その両手は、デヒョン自身の膝を払っていた。
「よくやったよ。くそ」
「え?」
「よくやったって言ってんだよ」
デヒョンは苦い顔でタバコに火をつけた。酒もタバコも、もう底をつきかけていた。デヒョンはポケットを探り、金を差し出した。ジフンはぼんやりとそれを見下ろした。もう帰れということかと思い、苦笑いが浮かんだ。
「酒とタバコ、買い足してこいよ」
「あ……え?」
「何してんだよ。友達の秘密を言いふらしたんだから、これくらいしろよ」
「うん。わかった」
ジフンはすぐに金を受け取り、コンビニへ走った。金を差し出し、冗談めいたことを言う顔は、いつものデヒョンだった。こんな使い走りなら、いつでもよかった。
「おい、はあ……戻ったぞ」
「ずいぶん早かったな」
新しい焼酎の瓶が開いた。同じ酒なのに、さっきとは違う味がした。
「もう起きちまったことは、どうしようもねえだろ」
「そうか……俺が言えたことじゃないけど、そう言ってくれると、ありがたいよ」
「俺がヒソルを好きになったのだって、もう起きちまったことなんだよ」
真剣な口調に、ジフンは静かに耳を傾けた。
「お前からしたら、何かせずにはいられなかったんだろ。だから、もういい」
「ごめん……」
「もういいって」
二人には、また笑みが戻った。笑って話すようなことなのかはわからなかったが、デヒョンが笑ってくれるのが、申し訳なくも、ありがたくもあった。
「いつ知ったんだよ、それ」
「二か月くらい前かな」
「二か月って……待てよ。俺らが山に行くより前か?」
「うん」
デヒョンはじっと考え込んだ。山で話したことを、一つずつ思い返しているようだった。
「そういえば、あのとき、まだ何か話そうとしてた気もするな。お前も、いろいろきつかっただろ」
ジフンは、これまでの日々を思い返した。セハと交わした会話が、川の水と一緒に流れていった。
「ほんと、わかんねえな」
「何が?」
「セハとは、そんなに話したこともないし、特別優しくしたわけでもないのにさ」
もしかすると、デヒョンには、セハの視線を気にする余裕がなかったのかもしれない。
「人の気持ちって、そういうもんみたいだよ。思いがけず好きになったり、急に嫌いになったり……考えてみたら、俺がセハを好きになったのも、いきなりだったし」
「そうなるか」
ジフンの言葉に、デヒョンは何かを思い浮かべているようだった。今、その思いの向こうに誰がいるのか、言われなくてもわかる気がした。
「そうだな。理由もなく、そうなるもんな」
「うん……」
ジフンには、まだ振り払っておきたいことが一つあった。デヒョンとは関係のないことだった。もうどうであっても構わなかったが、デヒョンの考えも聞きたくなり、切り出した。
「それと、この前、実はセハの家の前に行ったんだけど……」
ジフンは、セハの家の前で見たことを話した。デヒョンに宛てた手紙を燃やしたと、すっきりした様子で話す電話の声。それから、ガンウン。つかめないセハの心の話だった。
「うーん……でも、それ、何でもないのかもしれねえぞ」
「何でもない?」
「あとで聞いたんだろ。あの子とは、もう会いたくないって言ってたんだろ? 何かあったんなら、お前が真っ先に知ってたんじゃねえの」
「そうかな。あのときは、もう終わったと思ったんだ。それで、ヒョンソと会う約束もして」
「ヒョンソ? ヒョンソって、今度は何だよ」
「ああ、それは……」
デヒョンと話していると、ヒョンソを今日誘い出した自分が、ひどく軽薄に思えた。ヒョンソの気持ちがどれほど重かったのかはわからない。それでも、少なくとも、やけになった勢いで向き合っていい相手ではなかった。ジフンは、ヒョンソのことを話した。
「何だよ。くそ贅沢な悩み抱えてたんだな」
「いや……そんなに楽しい話じゃないよ」
デヒョンはくっくっと笑い、コップを空にした。
「あれが九十九パーセントだったのか」
「ああ……それは」
そんな言い方をするつもりはなかった。けれど、ただ口から出ただけだと言い切るには、引っかかった。気づかないうちに、ヒョンソとセハを秤に載せていたのだろうか。未熟な自分が、ひどく情けなく思えた。




