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第48話 ミントの香りがする子(1)

2001年7月、18歳のジフン


 頭が痛かった。胃がむかむかして、バスを降りて吐きたかったが、どうにかこらえて学校に着いた。酒の匂いでばれないかと、学校の前のコンビニに寄り、飲み物を買って飲んで、ガムを噛んだ。幸い、今日は授業がなかった。二か月に一度の特別活動の日だった。簡単な朝のホームルームを終えると、それぞれの部活動へ散っていった。部に入っていない生徒は自習だった。こんなときは、部に入っていないほうが楽だと思ったが、久しぶりに同級生や後輩の顔を見ると、その考えもすぐに消えた。

「先輩、ずいぶん久しぶりじゃないですか」

「ほんとだよ、イム・ジフン。二年になった途端、部活ほったらかしだな」

 三年の先輩たちは、大学修学能力試験まであまり時間がなく、期末試験も二週間後に迫っているせいで、一人も来ていなかった。

「普段はちゃんと稽古してるよな? 俺、ちょっと横になるわ」

 ジフンは剣道着に着替え、道場の隅に寝転がった。道場で横になっているところを先輩たちに見られたら大変だっただろうが、冷たい板張りの床は、なかなか気持ちよかった。


 少し眠って目を覚ますと、みんなはあちこちに集まり、ふざけて遊んでいた。土曜日の特別活動は、軽く体を動かして、こんなふうに時間を過ごすことが多かった。ごみがたまったので、ゲームで当番を決めた。よりによってそれにもジフンが当たり、ごみ置き場へ向かう途中、ぶらぶらしていたヒジェに会った。

「おい、イム・ジフン」

 ヒジェは、校舎の隅のほうを指した。人けの少ない倉庫へ向かう途中、校庭でデヒョンにも会い、合流した。

「あとでヤンジェに行こうぜ。ヒソルの学校の女子も来るって」

 煙が広がらないかと手であおぎながら、三人は急いでタバコを吸った。ヒジェが先に吸い殻の火を消した。デヒョンが尋ねた。

「試験まで、あと二週間くらいだろ。お前ら勉強しねえの?」

 友達の中ではまだ勉強をしている、デヒョンらしい返事だった。

「試験勉強は、試験の前日にするもんだよ。今やっても、どうせ全部忘れる」

 ジフンは、もっともだというように頷いてから言った。

「でも俺、今日は行くとこがあるんだ。ほかのやつ誘って遊べよ」

「くそ。付き合い悪いな、お前ら」

 幸か不幸か、友達は行き先を聞かなかった。今日は、そんな無関心がむしろありがたかった。


 やがて特別活動も終わった。家に着いたジフンは、汚れた体をもう一度洗い、眼鏡の代わりにコンタクトを入れた。時計を見ると、一時を少し過ぎていた。まだ時間が十分あったので、部屋に入り、机の前に座った。パソコンをつけ、音楽を聴きながら少し考え込んだ。聴きたい音楽を好きなだけ聴けるのが、パソコンのいいところだった。久しぶりにパソコン通信に接続したが、文章を書くのはためらわれた。「詩とエッセイ」のサークルは、ジフンが長く参加していた場所だった。さまざまな思いつきを書き、会員たちと言葉を交わす場所だったが、もう長いこと書き込んでいなかった。キーボードに手を置くと、いつもセハへの思いが浮かんだ。けれど、自分の乏しい言葉では、その感情を写し取れない気がした。この前の火曜日も、こんなふうに心が絡まっていた。ガンウンのことを聞きたかったが、どこから切り出せばいいのか、わからなかった。



「聞きたいことがあるんだけど」

「うん?」

 会ったときからずっと深刻な顔をしていたので、セハは何度も理由を尋ねてきた。その理由を話すのは難しかった。表情を取り繕えない自分が、もどかしかった。けれど、絡まった気持ちを抱えたまま黙っているのは、もっともどかしくて、授業が終わってから口を開いた。

「デヒョンのことは、もうすっかり吹っ切れたの?」

「ああ、もちろん! 手紙を燃やしたって言ったでしょ」

 聞きたいのは、別のことだった。

「一日、また一日って、日記みたいに書いてたんだ。書いてると、気持ちが整理される気がして。でも、いつからか、ばかみたいに思えてきたの。それで、燃やしたらすっきりした」

「じゃあ……」

 なかなか言葉が出なかった。いつも、セハの口から何かを確かめるたびに、惨めな気持ちになった。それでも、確かめずにはいられなかった。

「うん? さっきからどうしたの? 言ってみてよ」

「じゃあ、前の彼氏は?」

 セハの笑顔が消えた。かすかな笑みを浮かべていたが、それは笑っている顔ではなかった。

「元彼のこと、急にどうして?」

 聞き返されても、うまい答えが思いつかなかった。見たことを話したかったが、その資格はなかった。

「ただ、気になって」

 セハは唇をきゅっと一文字に結び、考え込んだ。やがてまたにこりと笑い、ジフンを肘で軽くつついて答えた。

「実は、話しにくいこともあるの。でも、今はっきり言えるのは、もうあの子に会いたくないってこと」



 セハとの会話は、十分な答えにはならなかった。あと数週間で夏休みだった。期末試験が終わったら告白しようと決めていた気持ちは、ガンウンと一緒にいるセハを見てから、一瞬で散ってしまった。ふと時計を見ると、二時が近づいていた。ジフンは急いで家を出た。

「ごめん、遅れた?」

 坂道を急いで下りてきたので、息が上がった。

「ううん。今来たところ。先にチケット買っちゃおう」

 ヒョンソは、いつも洗練された服を着ていた。今日は白いブラウスに、体に沿う黒いワンピースだった。体の線がほのかに見えた。高校生とは思えない大人っぽさがあった。

「何してるの。早く行こう」

 ヒョンソが腕を引いた。ジフンはにこりと笑い、隣に並んで映画館へ続く階段を上った。

「何見ようか? これ、もうすぐ終わるんだって。私、まだ見てないんだ」

 ヒョンソは目尻を下げ、ふざけて泣きそうな顔をした。指さした映画は、『パール・ハーバー』だった。

「ああ、それは……」

「見たんだね? ほかのでもいいよ」

 余裕のある笑みだった。見たい映画を一緒に見られないことが、かえって申し訳なくなるようなおおらかさだった。

「俺、もう一回でもいいよ。見たければ見よう」

「ううん。二人とも見てないのがいいな。これはどう?」

 ヒョンソが次に指したのは、セハと見るか迷ったコメディ映画だった。

「うん。これにしよう。もうすぐ始まるね」

「ふふ。楽しみ」


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