第38話 君を見ていた(1)
2001年6月、18歳のジフン
六月の終わりが近づくと、シャツが汗を吸い、背中に張りつき始めた。ほとんどの生徒は夏服を出して着ていたが、ジフンは学校の夏服がどうにも気に入らず、まだ春秋用の制服にこだわっていた。
「今日は何する?」
ビリヤードも、PCバンも、カラオケも、そろそろ飽き始めていた友達は、放課後、バスケットボールをした。人数が合わず、デヒョンが運動系の部活から友達を一人連れてきた。三対三でしばらくボールを投げて遊び、疲れて木陰に腰を下ろしていた。
「今日、予定ないやつ?」
汗を冷ましていると、デヒョンがみんなを見回して尋ねた。ジフンとチョンウォンだけが、軽く手を上げた。
「ヤンジェにでも行ってろよ。あとでヒソルと行くから」
ヒジェの言葉にみんな頷き、脱いだ服とバッグを手に取った。デヒョンは連れてきた友達にも来るように言ったが、首を振られた。
「俺、着替えてから行こうかな」
一日中、汗で濡れた長袖のシャツを、まずは着替えたくて、ジフンは家へ帰ると言った。
「来ないってわけじゃねえよな? あとで来いよ」
ヒジェは確かな返事をもらおうと、肘でつつきながら言った。
「行くかもしれねえし、行かねえかもしれねえし」
「来いよ。あとでソヒョンとジニョンも来るって。ほかにも何人か来そうだし」
誰が来るのか気になったが、聞かなかった。どうせ何度か会ったことのある人だろうし、誰でもよかった。
「わかった。連絡するよ」
いざ家でシャワーを浴びると、どうにも外へ出る気になれなかった。薄い服に着替え、扇風機の風に当たりながらジュースを飲むと、家はそのまま天国だった。
――このまま家にいようかな。
ジフンは携帯電話をいじった。まだ友達からの連絡はなかった。メールの受信箱に、セハの名前が目に入った。セハとは、一日に一、二度ほどメールで話していた。一日中やり取りするには、まだぎこちなさがあった。最後のメールも、ジフンの言葉で終わっていた。ずいぶん近づいたと思ったが、セハは、まだ遠くに感じられた。急に近づこうとして、今の関係まで失うのが怖かった。メールを書いては消し、考え込んでいるうちに、いつの間にか眠ってしまった。
「おい、電話出ろよ。うるさくてたまんねえ」
兄が足で腹をつつき、ジフンを起こした。携帯電話の着信音が鳴っていた。いつの間にか真っ暗になった窓の外を見て、慌てて電話に出た。
「もしもし」
ヒジェだった。どうして来ないんだと、声を荒らげていた。時計を見ると、もう九時を過ぎていた。
「寝ちまった。今から行っても遅くなるし。お前らだけで遊んでろよ」
「だめだ。今すぐ来い。お前が来るまで帰らねえから」
ヒジェが帰らないからって、何だというのだろう。けれど、特にしたいこともなかったジフンは、すぐ行くと言って電話を切った。友達はヤンジェで過ごしたあと、ジュミョンの家の近くへ移動していた。ジュミョンの家までは、バスで四十分かかった。席に座り、イヤホンを差して、もう少し眠ろうかと思ったが、携帯電話が気になった。今ごろなら、塾もそろそろ終わるのではないかと思い、またメールを書いては消した。何気なく連絡するには、どんな言葉があるだろう。
けれど、何も思いつかなかった。
メールを送っても、返事が翌日になることは、いくらでもあった。突然電話がかかってきて、長い時間話す日もあった。ジフンは、その一つ一つに胸をときめかせた。メールを送ろうかと迷う指先も、遅れて届く返事も、不意にかかってくる電話も、楽しかった。ラジオで、片思いがつらいというお便りが読まれると、それさえ喜びじゃないかと思った。
結局、メールは送れなかった。ジュミョンの住むマンションの敷地に入ると、もうにぎやかな声が聞こえていた。友達は遊び場に集まり、話に花を咲かせていた。ヒジェとチョンウォンがジフンを見つけ、手を振った。
「何しに来たんだよ?」
ヒジェがくすくす笑ってからかうと、ジフンは苛立った声で答えた。
「くそ。お前が来いって言ったんだろ」
ジュミョンが、指で口元をそっと隠した。
「言葉遣い、気をつけなきゃ」
それから、軽く首を傾け、ほかの子たちを示した。ヒソルとソヒョンのほかに、知らない女の子が二人いた。
「あ、ごめん。こいつを見ると、つい」
ジフンがぺこりと頭を下げると、女の子たちは笑って挨拶した。
「あれ?」
知らない子たちだと思ったが、一人はヒョンソだった。暗いタラクでは、酔ってよく見ていなかったヒョンソを、今日は初めてちゃんと見る気がした。
「やあ。久しぶり」
「そんなに久しぶりじゃないよ。この前、ソヒョンの誕生日に会ったでしょ」
ジフンは友達の間に座り、嬉しそうに挨拶した。ほかに話すこともなく、みんなを見回して言った。
「何でこうしてんの? 何もせずに?」
ヒジェは肩をすくめた。
「こういう日もあっていいだろ。毎日毎日、同じことばっかやるのかよ」
「そりゃそうだな。何の話で、あんなに騒いでたんだ?」
本当に何でもない話だったのか、はっきり覚えているやつもいなかった。他愛もない話がまた続いたが、何がそんなにおかしいのか、笑い声は途切れなかった。
「氷鬼でもやるか」
デヒョンは話すことが尽きたのか、背中を預けて座っていたが、唐突に提案した。
「何で氷鬼だよ。小学生か」
ジフンは眉をひそめたが、何人かが賛成してしまい、あっという間に遊ぶことになった。
「でも、本気でやったら、女の子が不利じゃねえ?」
「じゃあ、ペアにして、女の子は相手の後ろに隠れて、男がけんけんで女の子を捕まえるんだ」
普通の氷鬼とは、ずいぶん違う遊びになったが、みんなは楽しみなようで、熱が入っていた。まずカップル同士で組み、残りはじゃんけんで決めた。ジフンは、ヒョンソとペアになった。
「ジフン、こういうの得意?」
「俺がいちばん下手だと思うよ」
遊び場でやる簡単なゲームのわりに、結構緊張した。女の子たちは男の子の後ろに立ち、服をつかんだ。鬼になったヒジェとヒソルが、まずみんなを追いかけた。笑って騒ぎながら、遊びに夢中になった。片足で跳ね回っているうちに、服をつかんでいる相手が手を離してしまうと、鬼が交代することもあった。相手と速さまで合わせながら、逃げたり追いかけたりしなければならなかった。みんなはしばらく、遊び場中に響くほど笑いながら遊んだ。
「学生さんたち」
夢中になってから、一時間近く経とうとしていた。その間、鬼は何度も交代し、言い合いにもなり、ルールも何度となく変わった。そこへ誰かが近づき、みんなを呼んだ。警察官だった。
「住民の方から通報がありました。この時間に、ちょっと騒ぎすぎたみたいですね。学生さんなんだから、そろそろ家に帰らないと」
引き締まった表情の警察官は、できるだけ穏やかな口調で言った。
「すみません。もうやめます。すぐに帰ります」
デヒョンがすぐに前へ出て、頭を下げた。ほかのみんなも、笑って騒ぐのをやめ、申し訳なさそうにおとなしく集まった。
「そうしてください。また通報があったら、無理にでも帰ってもらうことになりますよ」
額には汗の粒が浮かび、背中もすっかり濡れていた。デヒョンが何度も頭を下げ、静かにすると約束すると、警察官はほどなくパトカーに乗って去った。
「楽しかったけど、やめねえとな」
「今度は昼間にやろうぜ」
みんなは、また集まって座り、できるだけ小さな声で話した。




