第37話 屋根裏(2)
何人かが誕生日のケーキを持ってきて、ソヒョンは幸せそうに笑い、ろうそくを吹き消した。誕生日の歌が大きすぎたのか、つまみを運んできた店主が、静かにするように言った。席を埋め尽くす学生たちが、静かに遊ぶのは無理だった。何がそんなに楽しいのか、ビールは来るそばから空になっていった。ジフンは海から帰って以来、酒を控えめにしていた。酔った自分の姿は、思い返しても恥ずかしかった。海で初めて会ったカンヌンの女の子たちに、ひどいことを言ったのを思い出すと、自然とグラスを置くようになった。
――今日までにしろよ。
インスの言葉もずっと頭に残っていて、酒から距離を置くのがいちばんだった。今日も、あちこちの友達とグラスを合わせるうち、少し酔いが回ってきたので、飲むのをやめた。
友達は用意してきたプレゼントを渡した。ジフンたちも金を出し合い、かなり高い服を一着買って贈った。ジフンは、自分の誕生日までどのくらいあるのか考えてみた。夏の終わりだった。誕生日はいつも彼女と過ごしたいと思っていたが、難しいことに思えた。今年も友達と過ごすことになるだろうが、これほど大勢を集める才覚はなかったので、改めてソヒョンはすごいと思った。
「ジフンって、あんまり飲まないの?」
ジフンは、人の多い場では落ち着かなかった。今日はあまり飲まず、黙って座っているジフンが、退屈に見えたのかもしれなかった。周りに座っていた子たちが、ほかへ目を向けると、ヒョンソが話しかけてきた。
「ああ、最近は、ちょっと控えてるんだ」
「へえ。どうして? 普段はどのくらい飲むの?」
「さあ……どのくらい飲めるかってこと? 焼酎二本くらいで、結構酔うかな。三本は危ない」
「じゃあ、飲めるほうだね。今日みたいな日に飲まなくて、いつ飲むの?」
止める間もなく、ヒョンソは空いたグラスを満たした。気まずい空気の中で話しかけてくれるのは悪くなかったので、ジフンはヒョンソとグラスを合わせた。
「飲むと、次の日つらかったりするし。たくさん飲んでも、いいことないんだよね」
酔うと気だるくなり、頭がふわふわする感じが好きだった。けれど最近は、なぜか先に気が沈んでしまった。もう飲まないつもりだったが、ヒョンソが勧めてくれるのに、わざわざ場の空気を壊したくはなかった。ジフンは、たまったノルマをこなすように、腹の中を酒で満たしていった。
「よく飲むね。注がれたからって、全部飲まなくてもいいんだよ」
短い間にビールを飲みすぎたのか、腹がすぐにいっぱいになった。ジフンは立ち上がり、ヒョンソに言った。
「ちょっとトイレ」
ヒョンソは頷き、隣の友達と話を続けた。
椅子と壁の狭い隙間を抜け、タラクの出口を探した。トイレで用を足すと、酔いが回ってきた。今日は、気が沈む暇さえない日だった。酒がもたらす、独特の気だるさが訪れた。久しぶりの感覚だった。
明るい顔でトイレから出ると、ヒョンソがいた。
「あ、ちょうどよかった。私がトイレに行ってる間、前にいてくれる?」
トイレは男女共用で、入るとすぐに洗面台と小便器が見え、洋式便器は薄い仕切りの奥にあった。男女が一緒に入ってしまう、気まずい状況がよく起きた。タラクパンの、唯一の欠点だった。ジフンはにこりと笑い、道を譲った。ヒョンソが入っている間、ちょうどほかの男性客が入ろうとしたので、中に人がいると伝えた。
「ありがとう。ここのトイレって、本当に困るんだよね」
手早く用を済ませたヒョンソが出てきて、礼を言った。
「そうだね。男でも気まずいんだから、女の子はもっとだろうね」
「でも、今日、つまらなくない?」
タラクへ戻る途中で、ヒョンソは、かなり図星を突くことを言った。
「つまらないわけじゃないけど。予想はしてたけど、人が多すぎて。こういう雰囲気、ちょっと苦手なんだ」
「あはは。そんな感じした」
「うん。魂が抜けてくみたい」
ヒョンソは笑い、足を止めた。
「アイスでも食べない? 急に食べたくなっちゃった」
「お、いいね」
飲み始めてから、いつの間にか二時間以上経っていた。タラクは、来る学生が意外と多く、時間制限があったので、少し外で風に当たっていれば、そろそろ終わるころになりそうだった。
「何にしよう。何が好き?」
ジフンは慎重にアイスを選んだ。
「メロナ」
「あ、かぶったね」
ヒョンソは、ふざけてジフンの腕をつねり、メロナをもう一本取った。ジフンは財布を取り出して言った。
「俺がおごるよ」
「ありがとう。ごちそうになるね」
「いいよ。たいした値段でもないし」
二人は道の端に立ち、アイスを食べた。夜の通りには、夏が近づいていることを告げる、六月の空気が満ちていた。夜の空気を吸うと、ようやく息がつけた気がした。もう半袖でも過ごせるくらいだったが、夜も遅く、冷たいものを食べると、体がひんやりした。
「寒くない? アイスまで食べると、結構寒いね」
「えへへ。大丈夫。涼しくていいよ」
「ソヒョンと中学の友達なら、ヒソルやジニョンとも仲いいの?」
「仲がいいってほどじゃないけど、会えば嬉しいくらいかな?」
ソヒョン、ヒソル、ジニョンは、高校は違っても同じ中学の出身で、いつも一緒にいた。そういえば、タラクでも、ヒョンソはヒソルやジニョンより、隣に座っていた友達と親しそうだった。
「あ」
「どうしたの? タバコ?」
あっという間にアイスを食べ終えたジフンは、ポケットを探った。どうやらタラクで吸ったとき、そのまま置いてきたらしかった。
「うん。置いてきたみたい」
「はい」
ヒョンソは小さなバッグから、ポーチを取り出した。タバコ一箱とライターを入れるのに、ちょうどいい大きさだった。二本取り出して、一本は口にくわえ、もう一本をジフンに渡した。
「お、サンキュ。助かった」
ヒョンソは自分のタバコに火をつけ、ライターも渡した。
「ごほっ、ごほっ」
ヒョンソのタバコは、喉にガツンとくるようなミントの香りがした。いつも吸うものとは違い、急に咳が出てしまった。
「あら、どうしたの。吸い慣れてない人みたい」
「いや、メンソールは吸わないんだけど。これ、喉が痛くなるくらいだね」
喉をさすっていると、ヒョンソのくすくす笑う声が聞こえた。
「そうだね。メンソール吸わない子って、これ嫌がるんだよね」
最初の二口は、まだ喉がひりひりしたが、だんだん慣れてきた。喉から鼻まで通り抜けるようなミントの香りも、悪くないと思った。
「吸ってると、悪くないね。これ」
「そうでしょ。私はこれしか吸わないんだ。タバコ吸う女の子って、どう思う?」
「別に何とも。吸わない子のほうが珍しいから」
タラクは、タバコの煙で白く霞んでいた。小さな換気扇が一つあったが、役目を果たすには力不足だった。煙が濃くなると、半分ずつに分かれて吸おうと言う子もいたほどだった。今日集まった二十人ほどの子たちも、男女を問わず、みんなタバコをくわえていた。酒とつまみを運んでくる店主は、ぎょっとして出ていくのだった。
「よかった」
「ん? 何が?」
ヒョンソの大きな目が、半月のように細まった。
「ううん、何でもない。タバコ吸う女の子は嫌いかなって思って」




