第36話 屋根裏(1)
2001年6月、18歳のジフン
金曜日、学校が終わると、いつものように友達が集まった。以前集まっていた、学校の向かいの住宅街には、もう行けなかった。代わりに、少し離れたヒジェの家の裏が、新しい隠れ家になった。
「ここまでは見回り来ねえだろ。さっさと一本ずつ吸って行こうぜ」
五人は手早く一本ずつ口にくわえ、火をつけた。ヒジェの住む集合住宅の裏には、左右に通路があったので、一方ずつ受け持って見張ることができた。両方から同時に現れたら、すぐ後ろの塀を越えるつもりだった。片側を受け持ち、ちらちら様子を見ながら煙を吐いていたチョンウォンが、短くなった吸いさしを突然地面へ投げ捨て、叫んだ。
「おい! くそっ!」
反対側を見張っていたインスをはじめ、みんなはチョンウォンを見て、我先に塀を越え、必死で走った。しばらく先頭を走っていたチョンウォンが、振り返った。
「へへ、嘘だよ」
その後は、険悪な空気になった。デヒョンは本当に殺してやると蹴りを入れ、止めるのに汗をかいた。チョンウォンは一人ずつに殴られながらも、にこにこ笑って謝った。
「はあ、クソ野郎。もう一回やってみろよ」
先生に見つかってから、まだいくらも経っていない友達は、特に気が立っていた。けれど、ジフンには、なぜかこの状況がおかしかった。久しぶりに、大きな声で笑った気がした。
――こんなに笑ったのも、久しぶりだな。
みんなは、また新しい隠れ家へ戻った。慌てて踏み消し、逃げた跡があちこちに残っていた。インスはほとんど吸わないまま捨てたらしく、しばらく足元を探り、長い吸いさしを拾って火をつけた。
「はあ、腹減った。あの野郎のせいで、すげえ走ったし」
みんなはくすくす笑い、また余裕を取り戻した。緊張が解けたのか、もう見張るのもやめ、集まって座った。
「あとでソヒョンの誕生日会に行くまで我慢しろよ。向こうでつまみでも食え。みんな行くんだろ?」
デヒョンの言葉に、みんな頷いた。
「ソヒョン、友達みんな呼ぶって言ってたから、彼女いねえやつらは気合い入れとけよ」
インスは笑いながら、チョンウォン、ジフン、デヒョンを見回した。意外にも、デヒョンがいちばん乗り気で答えた。
「当たり前だろ。俺、今日すげえ楽しみにしてたんだから。チョンウォン、お前もちょっとは身なり整えて来いよ。くだらねえことばっか言ってねえで。ジフンは、うーん……お前はそっちでうまくやれ」
「何をうまくやれって?」
デヒョンは、当たり前のことを聞くなというように答えた。
「セハだよ。セハも来るだろ。あの子のそばにちゃんといろって。いつも様子うかがって、もじもじしてねえで、しっかりアピールしろよ」
そんなふうに見えていたのかと思い、ジフンは眉をひそめた。
「言うほど簡単なら、とっくにやってるよ」
インスが、すかさず言った。
「そうだよ。お前、もっと積極的にいかねえと」
友達の言葉が、ますます重荷に感じられた。みんなが自分の背中を押していることに、セハが気づいてしまわないかと心配だった。
「わかったけど、セハの前で、あんまり露骨にやらないでくれよ。負担にしたくないんだ」
「お前のやり方で、何が負担になるんだよ。たまに、いるのかどうかもわかんねえのに」
みんながげらげら笑ってからかうので、ジフンは歩き出した。
「行こうぜ。家寄ってからヤンジェ行ったら、七時過ぎるぞ」
みんなは、あとでなと挨拶を交わし、ばらばらに散っていった。インスだけが、一緒に家へ向かうバスに乗った。
「でも、だからって、セハ一人に入れ込みすぎんなよ」
「ん?」
バスの中で他愛もない話をしていると、インスがセハの話を持ち出した。
「女はあの子だけじゃねえだろ。あの子ばっか見てて、あとで傷ついたらどうすんだよ」
そのとおりではあったが、それも簡単なことではなかった。あの夜、兄も同じことを言ったのを思い出した。
「そのときは、お前が慰めてくれるだろ」
「ふざけんな。思いっきりからかうから、泣くんじゃねえぞ」
もう、泣きそうになる日々は過ぎていた。初めてセハからデヒョンの話を聞いた日がそうだったし、海でインスと二人きりで話したときもそうだった。セハは、深い意味もなくデヒョンの話をすることがあった。サッカーをして怪我をした話や、デヒョンの姉、教会の話など、たいした意味のない話だったが、ジフンにはつらかった。
ヤンジェに着いたのは、七時を少し過ぎたころだった。インスとジフンは友達に連絡を取りながら、「タラクパン(屋根裏部屋)」へ向かった。タラクパンは普通の飲み屋に見えたが、上の階には、天井の低い、狭い空間がもう一つあった。店主は学生たちを、「タラク(屋根裏)」と呼ばれるそこへ上がらせた。金のない子たちが、誕生日などにときどき来る店だった。
「何だよ、丸ごと貸し切りにしたのか?」
誕生日用の帽子までかぶり、上座に座っているソヒョンを見て、インスが言った。
「うん。お店の人に、前もって話しておいたんだ」
タラクには、二十人ほど座れそうだった。みんな、ソヒョンの誕生日を祝うために集まった友達だった。一、二度会った男の子も、一緒に遊んだことのある女の子もいた。よく知らない子も何人かいて、席は埋まっていた。
「ジフン、やっほー」
初めて見る女の子たちの一人と目が合うと、いきなり親しげに挨拶された。
「あれ? 誰だっけ。見覚えはあるんだけど……?」
「私、ヒョンソ。イ・ヒョンソ。チョンデ附属高校の前で、セハと一緒に塾に行った日、覚えてない?」
「ああ! ごめん。人が多すぎて。もちろん覚えてるよ」
ジフンも、嬉しそうに挨拶した。ソヒョンの中学時代の友達と並んで座っていたので、ヒョンソが一人ずつ紹介してくれた。挨拶を終えたジフンは、周りを見回した。ヒジェとヒソルが一緒に入ってきて、インスも店の前でジュミョンに会い、連れて入ってきた。チョンウォンとデヒョンも入ってきて、人の間に席を取った。ジニョンをはじめ、ソヒョンの学校の友達もいたが、セハはどこにもいなかった。
――金曜日は、塾なかったんじゃなかったか。
前もって話しておけばよかったと思ったが、ひとまず誕生日会に集中することにした。




