第35話 ぼやけた夜(3)
慌ただしく過ぎた一日だった。朝早く起きてセハとジュミョンに会い、全身が痛くなるまでアトラクションに乗った。そして、夕方から夜まで。やけに長く感じる帰り道さえ、ジフンを苦しめているようだった。それでも、友達が心配するだろうと思い、インスに電話をかけた。
「おう、どうした? どこだよ。まだ戻ってこねえの?」
「俺、先に帰るよ。ちょっと酔いすぎたみたい」
わざと呂律を回らなくして、演技をした。インスはわかったと言い、自分もそろそろ帰ると告げて電話を切った。家の近くのバス停で降り、とぼとぼ歩いた。酔いはとっくにさめていたので、酒のせいではなかった。遊園地で一日中歩いたせいでもなかった。このまま家に帰っても、眠れそうになかった。スーパーに入り、ビールを三缶買って、公園へ向かった。鼻を垂らしていたころから、近所の友達と遊んでいた場所だった。慣れ親しんだここが、なぜか見知らぬ場所に感じられた。一缶開けて、ごくごく飲んだ。冷たい感触が全身へ広がると、かえって頭が冴える気がした。残りのビールを流し込みながら、セハとの会話を一つずつ思い返した。
まだ、何かが起きたわけではなかった。それでも、これからデヒョンを見るたびに、そのことを思い出しそうで、気が沈むのはどうしようもなかった。
「おーお、こいつは」
聞き慣れた声に振り向くと、兄がいた。顔が赤いところを見ると、兄も一杯やってきたらしかった。
「高校生のガキが、まったく。世の中どうなっちまうんだろうな」
「今日は見逃してくれよ」
何でもないことのように顔を戻し、残りのビールを飲み干した。兄は隣へ来て、どさりと座った。
「何だよ。何をそんな深刻な顔してんだ」
「深刻も何も……」
兄はにこにこ笑い、呂律の回らない声でからかうように言った。
「高校生が深刻になるなんて、女のことくらいだろ。何だ、振られたか?」
あっけらかんと笑う顔を見て、一発殴りたくなった。ジフンは深くため息をついた。
「うん」
答えを聞くと、兄は袋からビールを一本取り出し、缶を開けた。
「女なんて、そいつ一人じゃねえだろ。飲んで忘れろよ」
ジフンは最後の一本を取り出した。兄と缶をぶつけ、またひと口飲んだ。
「そんな思いどおりになるかよ」
本当に深刻そうな弟を見て、兄は気の毒にも、もどかしくもなった。
「何があったんだよ。話してみろ」
ジフンは、それまでのことを兄に話した。出来事といっても、それほど多くはなく、説明はずいぶん早く終わってしまった。
「うーん。それはちょっとつらいな。わかる、わかる」
ことさら慰めたりはしなかった。誰かに打ち明けられてよかったと思った。話すと、何かが整理される気もした。
「二人きりになれる機会を、もっと作ってみろよ。一緒にいれば、もっとお前を見てくれるんじゃねえの? そいつら、まだ付き合ってるわけでもねえんだろ」
ジフンは頷いたが、どうすればいいのかわからなかった。
「来週の週末にでも、会おうって言ってみろよ。その友達に会うより、お前に会う機会を増やさねえと」
「来週の週末は、友達と海に行くことになってる」
「よく遊ぶなあ。勉強もしねえで」
それなりにもっともな話ではあった。むしろ、それをきっかけに、会う口実を作るのもいいかもしれなかった。ビールの缶は、いつの間にか空になっていた。そろそろ帰るかと兄を見て、ふと思いついて尋ねた。
「そういえば、兄貴って付き合ったことあるの?」
「俺? ねえよ、バカ野郎」
やはり、それほど役には立たない兄だった。明日からどうすればいいかわからず、罪もないビールの缶をつぶして投げた。
――もう……酒でもかっくらうか。
メールの着信音が鳴った。
『みんなのところにはちゃんと戻れた? 着いたらメールするって言ってたのに』
メールを読んだジフンは、携帯電話をしまった。
返信はしたくなかった。




