↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/73

第35話 ぼやけた夜(3)

 慌ただしく過ぎた一日だった。朝早く起きてセハとジュミョンに会い、全身が痛くなるまでアトラクションに乗った。そして、夕方から夜まで。やけに長く感じる帰り道さえ、ジフンを苦しめているようだった。それでも、友達が心配するだろうと思い、インスに電話をかけた。

「おう、どうした? どこだよ。まだ戻ってこねえの?」

「俺、先に帰るよ。ちょっと酔いすぎたみたい」

 わざと呂律を回らなくして、演技をした。インスはわかったと言い、自分もそろそろ帰ると告げて電話を切った。家の近くのバス停で降り、とぼとぼ歩いた。酔いはとっくにさめていたので、酒のせいではなかった。遊園地で一日中歩いたせいでもなかった。このまま家に帰っても、眠れそうになかった。スーパーに入り、ビールを三缶買って、公園へ向かった。鼻を垂らしていたころから、近所の友達と遊んでいた場所だった。慣れ親しんだここが、なぜか見知らぬ場所に感じられた。一缶開けて、ごくごく飲んだ。冷たい感触が全身へ広がると、かえって頭が冴える気がした。残りのビールを流し込みながら、セハとの会話を一つずつ思い返した。

 まだ、何かが起きたわけではなかった。それでも、これからデヒョンを見るたびに、そのことを思い出しそうで、気が沈むのはどうしようもなかった。


「おーお、こいつは」

 聞き慣れた声に振り向くと、兄がいた。顔が赤いところを見ると、兄も一杯やってきたらしかった。

「高校生のガキが、まったく。世の中どうなっちまうんだろうな」

「今日は見逃してくれよ」

 何でもないことのように顔を戻し、残りのビールを飲み干した。兄は隣へ来て、どさりと座った。

「何だよ。何をそんな深刻な顔してんだ」

「深刻も何も……」

 兄はにこにこ笑い、呂律の回らない声でからかうように言った。

「高校生が深刻になるなんて、女のことくらいだろ。何だ、振られたか?」

 あっけらかんと笑う顔を見て、一発殴りたくなった。ジフンは深くため息をついた。

「うん」

 答えを聞くと、兄は袋からビールを一本取り出し、缶を開けた。

「女なんて、そいつ一人じゃねえだろ。飲んで忘れろよ」

 ジフンは最後の一本を取り出した。兄と缶をぶつけ、またひと口飲んだ。

「そんな思いどおりになるかよ」

 本当に深刻そうな弟を見て、兄は気の毒にも、もどかしくもなった。

「何があったんだよ。話してみろ」

 ジフンは、それまでのことを兄に話した。出来事といっても、それほど多くはなく、説明はずいぶん早く終わってしまった。

「うーん。それはちょっとつらいな。わかる、わかる」

 ことさら慰めたりはしなかった。誰かに打ち明けられてよかったと思った。話すと、何かが整理される気もした。


「二人きりになれる機会を、もっと作ってみろよ。一緒にいれば、もっとお前を見てくれるんじゃねえの? そいつら、まだ付き合ってるわけでもねえんだろ」

 ジフンは頷いたが、どうすればいいのかわからなかった。

「来週の週末にでも、会おうって言ってみろよ。その友達に会うより、お前に会う機会を増やさねえと」

「来週の週末は、友達と海に行くことになってる」

「よく遊ぶなあ。勉強もしねえで」

 それなりにもっともな話ではあった。むしろ、それをきっかけに、会う口実を作るのもいいかもしれなかった。ビールの缶は、いつの間にか空になっていた。そろそろ帰るかと兄を見て、ふと思いついて尋ねた。

「そういえば、兄貴って付き合ったことあるの?」

「俺? ねえよ、バカ野郎」

 やはり、それほど役には立たない兄だった。明日からどうすればいいかわからず、罪もないビールの缶をつぶして投げた。

 ――もう……酒でもかっくらうか。


 メールの着信音が鳴った。


『みんなのところにはちゃんと戻れた? 着いたらメールするって言ってたのに』


 メールを読んだジフンは、携帯電話をしまった。

 返信はしたくなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。