第26話 あらわになった想い(2)
登山道の入口まで下りると、青い闇の中に街灯が一つ、また一つと灯っていった。二人はバスに乗り、友達とよく集まる大きな公園の片隅へ向かった。
インスとジュミョン、ヒジェとヒソル、チョンウォン、ソヒョンがいた。
「うわ、汗くさっ。二人とも離れて座って」
ソヒョンは顔をしかめたが、笑っていた。
「下りてみたら、もう暗くなっててさ。サウナにでも寄ろうと思ったけど、遅くなっちまった」
デヒョンは自分の服の匂いを嗅いだ。今日の名残が、草の匂いと混じっていた。わざとソヒョンに近づいて、からかった。ジフンは山での話をすっかり忘れたように、ジュミョンに今日の武勇伝を語っていた。
「もう死ぬってところで、頂上に着いたと思ったんだよ。でも、そこは頂上じゃねえの。目の前に、こーんなでかい山がどーんとあって……」
「チョンゲサンって、二時間もあれば登れる山じゃねえの?」
ヒジェが水を差した。ジフンは、何も知らねえくせにと熱弁を振るった。デヒョンは、できるだけ顔を向けないようにしていた。ジフンと話したばかりだからか、妙に、余計に気になった。それは苦しくもあった。だが、いつの間にか見ていた。
ヒソルはデヒョンと目が合うと、にっこりした。
「あ、そうだ。デヒョン」
バッグを持ってきて、何かを取り出した。
「誕生日プレゼント! その日は家の用事があるんだ。一緒に遊べそうにないから、先に渡しとくね」
何人かが振り向いたが、ほとんどはジフンをからかうのに夢中だった。インスだけが興味を示した。
「デヒョン、誕生日だったか。いつだっけ?」
「あさって。何だよ、プレゼントなんて。サンキュ」
デヒョンは、白い紙できれいに包まれた小さな箱を受け取った。思いもしなかった誕生日プレゼントに、戸惑った。リボンをいじっていると、ヒソルが「開けてみて!」とせかした。ほどいたリボンは、春の日の花びらのように、するりと地面へ落ちた。シールで留められた包装紙を破り、箱の蓋を開けた。
白い文字盤に銀色の縁。その端正な顔の中で、秒針がせわしなく動いていた。茶色い革のベルトがよく似合う腕時計だった。
「いつも、ベルトの切れた時計ばっかり持ち歩いてるでしょ。ベルトを買おうかなって思ったんだけど、これがよさそうだったから。きれいでしょ?」
「うん。ほんとにきれいだな。気に入った」
時計は、目をそらしていたものをすべて集めて動力にしたかのように、力強く動いていた。散らばっていた想いが、本棚にきちんと並べられていくようだった。
「何だ、時計か」
武勇伝が空振りに終わったジフンが、携帯電話を見ながら時計の時刻を合わせるデヒョンに目を向けた。
「うん、時計」
「ああ……時計……」
ジフンも、何かに気づいたようだった。
「なあ、デヒョンの誕生日、あさってだって。何する?」
すぐにこちらから目をそらし、友達のほうを向いた。気遣いがあからさまで、思わず笑みがこぼれた。デヒョンは腕にはめた時計と目を合わせた。誰かの冷たい手が、時計をぎゅっとつかんでいるようだった。きっと、山の中で迷子になった少女だろう。時計をつけた手首を見せ、にっこりした。ジュミョンも、よく似合うと言った。いつも日に焼けたように肌の浅黒いデヒョンに、不思議なくらいよく似合う時計だった。
「ウォルミドはどうだ?」
ヒジェの提案に、友達は呆れたように見た。
「学校はどうすんだよ。火曜だぞ」
デヒョンは、自分の誕生日に何をするか、あれこれ言い合う友達に目を戻した。
「一日くらい、さぼればいいだろ」
みんな、意外そうな顔をした。「お前がそんなこと言うなんて」「学校って、行かなくてもいいもんだったのかよ」と笑っていると、またいつもの日常に戻った気がした。
その夜、デヒョンは夢を見た。雪がこんもり積もった交差路だった。脚まで届く黒いコートを揺らし、雪をかき分けた。遠くでは、青い光がデヒョンを待っているようだった。
そして、道の上に、小さな花がうずくまっていた。
雪の中からも、力強く顔を出している、か細い一輪の花だった。デヒョンは立ち止まって、声をかけた。
「やあ。元気だったか?」
花は、うなずくように葉を震わせた。
「もう忘れちゃったのかと思った」
デヒョンは、花がよく見えるように、周りの雪を手で払った。
「覚えていてくれて、ありがとう」
立ち上がり、交差路の向こうの光を見つめた。それから身を翻し、来た道を引き返した。帰り道は真っ暗だったが、はっきりと見えた。
ふと目を覚ましたデヒョンは、枕元に置いた時計を見た。まだ朝の四時だった。台所へ行ってコップに水を注ぎ、喉を潤した。冷たい感触が、全身に注ぎ込まれた。
――少しだけ、先延ばしにしようか……。
デヒョンは再びベッドにもぐり込んだ。星の光が、雪のように数えきれないほど降り注ぐ夜だった。デヒョンがその時計をつけて出かけられるようになるには、さらに数年かかった。




