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第23話 小さな峰(1)

2001年5月、18歳のジフン


「はあ……はあ……」

「はっ……はあっ……」

 ジフンとデヒョンは息を切らしていた。登り始めて、まだ一時間を少し過ぎたばかりだったが、会話が途切れてからはずいぶん経っていた。

「おい、ちょっと休もうぜ」

 ジフンはもともと、運動となるとまるでだめだった。デヒョンも、どんどん遅くなるジフンの足に合わせて歩くほうが、かえって疲れる気がした。休もうと言われ、それもいいと、手頃な岩に腰を下ろした。

「少しは運動しろよ。おっさんじゃねえんだから」

 ジフンには言い返す気力もなかった。子どもの頃、母と山に登ったときは思ったほどつらくなかった。その記憶があったので、急に山へ行こうと言い出したデヒョンの誘いにも、すぐに乗った。考えてみれば、母は自分よりずっと体力のない大人で、あの頃のジフンは、元気があり余って夜も眠れないような子どもだった。


 水を一口飲み、草の匂いを吸い込むと、ずいぶん楽になった。脚を伸ばし、ふくらはぎを揉みながら言った。

「正直、もう下りたい」

 さっきから下りたかったが、口には出さずにいた。たったこれだけ歩いてやめたくはなかった。

「何だよ、もう――」

「でも、下りねえよ。最後まで行く」

 デヒョンの言葉を遮ると、ジフンは勢いよく立ち上がり、先に立ってまた坂を登り始めた。

「そうだよ。俺らの歳でこの程度で止まってたら、話にならねえよ」

「ふう……ふっ」

 デヒョンも軽い足取りで歩き出した。いつの間にかジフンを追い越して距離が開き、歩いては止まるのを繰り返した。


 頂上が見えた。鉛のように重くなった脚を引きずり、登山道に張られたロープにつかまって体を引き上げた。

「あそこがオンニョボンみたいだな」

 もう上り坂はなく、下りしか見えないと思ったのに、その先には、今まで登ってきたものよりも大きな山がそびえていた。

「おい、あれ何だよ。別の山か?」

 デヒョンは水を一口飲み、くすくす笑いながら答えた。

「あれがチョンゲサンだよ」

 ジフンは呆然とした。

「じゃあ、今まで登ってきたのは何なんだよ」

「峰がいくつもあるんだよ。ここはオンニョボンで、あっちはメボン。あっちが本当のチョンゲサンの頂上だと思えばいい」

 言っていることはわかったが、受け入れたくはなかった。

「つまり、今日はあそこまで行くってことだよな?」

「そう。ここからが始まりってことだな。でも、ひとまず下りだから、ゆっくり歩いてりゃまたすぐ着くよ」

 座って休んでいると、すぐにまた立って歩けそうになった。ジフンは少しずつ水を飲み、靴ひもをきつく結び直した。

「じゃあ、行こうぜ」


 尾根づたいに下る道で、ずいぶん楽になったジフンが口を開いた。

「あの歌、思い出すな。本当だったんだ」

 足元の枝や石に気をつけながら、二人は話した。

「何の歌?」

「『峰』」

 デヒョンには初めて聞く曲名だった。

「歌ってみろよ。タイトルからして、ここにぴったりじゃん」

 ジフンは、歌だなんて何を言うんだという顔でデヒョンを見た。

「神聖な山で、歌なんか歌えるかよ」

 そう答えはしたが、この場所にふさわしい神聖な曲だと思った。

「あの歌、サビにしかメロディーがなくて、あとは語りみたいな感じなんだ。詩を朗読するような」

「ちょうどいいじゃん」

 ジフンはじっくり歌詞を思い出した。長い長い文字の列が、登山道に沿って広がった。

「前に僕が登った、小さな峰の話をしようか……」


けれど僕が登ったのは

ただの峠にすぎなかった

道はまた別の峰へ

そこで折れた木の幹に

腰を下ろし、僕は見た

低いところへばかり流れ、たまった海


「おお……すげえ長いのに、全部覚えてんだな。終わり?」

「二番もある」

「続けてみろよ。聞くから」

 ジフンは続きを思い出そうとしたが、それ以上は出てこなかった。

「続きは知らねえ。ここまで覚えてただけでも奇跡だよ」

 デヒョンは、確かになと笑った。別の峰へと続く道は、登り始めたときほどつらくなかった。展望台を過ぎると、頂上が見えた。二人は残った力を振り絞り、大きな岩の上に立った。隙間なく並ぶビルを見下ろし、これだから山に来るんだなと思った。

「こういうとこでは、ヤッホーって叫ぶんじゃねえの?」

「やめろよ。恥ずかしいだろ」

 ジフンはくすくす笑いながら鞄を開け、中を探った。それから、頼めそうな人を見つけて駆け寄った。

「おい、おい。写真撮ろうぜ」

 ジフンが声をかけた人は、使い捨てカメラを手に、二人がポーズを取るのを待ってくれた。

「おお、よく持ってきたな」

「ああ。キョンポデで撮りきれなかったやつ」

 二人は親指を立ててポーズを取った。

「一、二、キムチ!」

 頂上に寄り合って座る人たちの間に、シャッターの音が澄んで響いた。


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